くらし

『法廷遊戯』著者、五十嵐律人さんインタビュー。「法律を学んだ理由は、主人公と同じです」

  • 撮影・豊田祐大(著者)黒川ひろみ(本)

「法律を学んだ理由は、主人公と同じです」

五十嵐律人(いがらし・りつと)さん●1990年、岩手県生まれ。東北大学法学部卒業。司法試験合格。今年、本作(「無辜の神様」より改題)で第62回メフィスト賞を受賞し、デビュー。次作『不可逆少年』は2021年初頭に講談社より発売予定。

同じロースクールに通う3人の優秀な学生。重い過去を共有する久我清義(きよよし)と織本美鈴(みれい)。そして異端の天才、結城馨(かおる)。
馨らは「無辜(むこ)ゲーム」と名付けた擬似法廷で学生間のトラブルを裁き、皆の鬱憤を晴らしたり、時にはその判定でさらなる火種をおこすこともあった。
卒業後、美鈴は殺人事件の被告に、清義はその弁護人となる。二人に謎解きを託したままこの世を去った馨がこだわった「同害報復」の意味とは? 
法律用語も法廷描写も多いものの、因果関係と謎解きの妙に没入し一気に完読する法廷ミステリ。書いたのは現役の司法修習生、五十嵐律人さん。自身の近況も作中に投影されているのだろうか。

「私は無辜ゲームのような危険な遊びはしませんでしたが(笑)、所々に自分の考え方を反映してはいます。例えば清義が法律に魅力を感じた理由として、感情に左右されない、〈条文に書かれている内容が全てで、論理的な解釈だけが正義とされる世界〉だったからとありますが、私が法律に惹かれたきっかけも同じです」

主人公の清義は、仲間内では「セイギ」と呼ばれている。

「名前は、キャラクター化する上で大事にしていることの一つ。今回はセイギというあだ名がまずあって、それに合う名前を半ば無理くり考えたんです。この話でのセイギとは、ジャスティスの正義だったり、裁判、ジャッジメント、ジャッジという意味だったりと、重要なキーワードになっている。ほかにも公平やケンジ(賢二)といった登場人物もいて、法律用語的な名前を楽しみながらつけました」

何が正義で何が罪なのか、一つの答えは出さなかった。

清義=正義という名付けは、読み進めていくうちに皮肉にも思えてくる。結局、誰が悪いのか、誰が正義なのか、本作では明らかにされない。罪とは何か、五十嵐さんの中で線引きはされているのか。

「客観的な、刑法の解釈としてどういう罪が成立するかは当然考えて描いているのですが、倫理や道徳的な意味で誰が正しくて誰が間違っていたかというのは……一般論としては線引きすべきでしょうが、ここでは答えを出しませんでした。もちろん投げっぱなしではなく、要素は全て出し切ったので、後はどう解釈してもらうか。これは冤罪の話ですが、冤罪は答えを出すのがなかなか難しく、神様から見た正解はあったとしても、今の司法制度でどう判決が出るかは別問題。この物語に関しても、一つの答えというのはないですね」

線引きをしないからか、清義も美鈴も過去に罪を犯しているということもあり、主人公なのに同調しにくいキャラクターではある。

「実際、読んだ方から“共感できなかった”って意見もいただきました。でも、めちゃくちゃ共感できる主人公よりは、ある事情があって罪を犯してしまったことをスタートラインにしたかったし、何よりストーリーやざらっとした読後感を重視したかったから、それは仕方ないかもしれません(笑)」

法律家を目指す若者たちの周辺で相次ぐ怪事件。真相を追う清義は、犯した過去と意外な形で対峙することになる。 講談社 1,600円

『クロワッサン』1030号より

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