【歌人・木下龍也の短歌組手】おうちで生まれたあるある短歌。
〈読者の短歌〉
この人の脇のにおいなら嗅げる/嗅げないで決める人付き合いは
(飯田和馬/男性/テーマ「匂い」)
〈木下さんのコメント〉
僕のはいかがでしょうか。
〈読者の短歌〉
不安をゴリラに言い換えて生活しています。今めちゃくちゃゴリラ。
(稲井亮太/男性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
ひとりでゴリラを抱え込まず、だれかの手を借りてみることも大事ですね。
〈読者の短歌〉
苦しいんですね、愛って 喉元で咲いたつつじが枯れないでいる
(うみなり/女性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
つつじ全般の花言葉は節度、慎み。赤いつつじは恋の喜び、白は初恋、だそうです。ググりました。名前からその花の姿を思い浮かべることができたり、花言葉を知っていたりすると短歌を読むときにも役立ちそうですね。まあ、ググればいいか。
〈読者の短歌〉
髪の毛がジュースの匂い 夜だから何も見えなくてもいいんだよ
(砂崎柊/男性/テーマ「匂い」)
〈木下さんのコメント〉
「髪の毛がジュースの匂い」と「夜だから何も見えなくてもいいんだよ」のあいだにつながりを見つけることができない。それぞれは独立した短い詩なのかもしれない。けれど、定型に収められているから何らかの意味を見出そうと情景を想像しようとする。例えば、これは恋人同士ではないふたりの甘い夜の話なのかもしれない。「ジュースの匂い」というのは他人の家のシャンプーの甘ったるい匂いのことかもしれない。「夜だから」夜だけはふたりの未来も「何も見えなくていいんだよ」と一方がもう一方に語りかけているのかもしれない。でもこれが正しい読みなのかはわからない。ただのこじつけかもしれない。わからない、消化しきれない、という方法で胸に残る短歌もある。
木下龍也
1988年、山口県生まれ。2011年から短歌をつくり始め、様々な場所で発表をする。著書に『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』がある。
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