【歌人・木下龍也の短歌組手】想像を掻き立てる秀逸な短歌の数々。
〈読者の短歌〉
泣きながら食う弁当のたくあんのマヌケな音を早く消したい
(新道拓明/男性/テーマ「音」)
〈木下さんのコメント〉
悲しいときに悲しい音楽が流れるのは映画やドラマだけ。にしても、たくあんの音はマヌケで滑稽すぎて頭が混乱してしまう。悲しいのも鳴らしてるのも自分なんですけどね。悲しみから早く立ち直りたいときはたくあんを食べるのがいいかもしれません。
〈読者の短歌〉
Kindleのひかりを薄く剥がしつつ読みすすめてた夏の章まで
(toron*/女性/テーマ「本」)
〈木下さんのコメント〉
このままでもきれいな短歌ですが「ひかりを薄く剥がしつつ」は、スワイプしてページをめくる=読みすすめる、ということを表しているはずなので「読みすすめてた」と改めて言い直す必要はないかもなと思います。例えば、
Kindleのひかりを薄く剥がしつつ夏の章まで背中を追った
など、読書の比喩を濃くするのもひとつの手かもしれません。
〈読者の短歌〉
誰も止めようとはしないアラームの設定者の不在がうるさい
(平井まどか/女性/テーマ「音」)
〈木下さんのコメント〉
先に切れるのは電池だろうか、堪忍袋の緒だろうか。
〈読者の短歌〉
小説とこの世は重力異なってこの世に戻るとき立ちくらむ
「長い時間おなじ姿勢で本を読んでいると立ち上がったときふらついてしまうのですが、立ちくらみと考えるのではなく小説の中と現実との重力が違うのだと考えた方が素敵だと感じました。同じ星とも限らないですし。」
(シギショアラ/女性/テーマ「本」)
〈木下さんのコメント〉
たしかに重力が違うように感じます。おもしろい考え方ですね。ただ、その柔軟な発想を落とし込んだ短歌がやや窮屈そうに見えます。31音という制約があるので難しいところなのですが、例えば、
物語から現実へ戻るときその重力の差に立ちくらむ
とすればすっきりしますかね。助詞は極力抜かない、同じ言葉が2回出てくる場合はどちらかを省略できないか検討してみる、というのをやってみてると窮屈そうな感じは解消されるかもしれません。
木下龍也
1988年、山口県生まれ。2011年から短歌をつくり始め、様々な場所で発表をする。著書に『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』がある。
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