自身が描く小説作品の中でもたびたび猫が登場し、実生活では家にいる猫だけでなく、近所の外猫もかいがいしく世話をしてきた、保坂和志さん。現在は17歳になるシロちゃんと、5歳のリンちゃんという2匹の猫の面倒を見ているが、彼らもそもそもは外猫。毎日せっせとご飯をあげているうちに心を通わせ、今や保坂家の一員に。
日課は猫の体調管理。保坂和志さんの日記ライフを拝見。
- 撮影・黒川ひろみ・村上未知 文・野尻和代
「日課は猫の体調管理を記すこと。それは生きている記録なのです」

そんな保坂さんの日課が、高齢のシロちゃんのご飯とトイレの記録。特にご飯の記録は、シロちゃんが外で暮らしていた5年前からつけ続けている。
「これまでの飼い猫にも高齢になったらしていたことだけど、歳をとると食欲が落ちたり不安定になってくるから、きちんと食べられているかをチェックするためにつけているんです」

キッチンに貼られたカレンダーには、何時何分に、何をどれくらい食べたのかがびっしり。その中には、外猫にもかかわらず、夜中の2時や明け方の5時に給餌している記録もあり、保坂さんの猫中心の生活が窺い知れる。
「目覚ましかけて起きて(笑)。僕は小刻みに眠れるから、全然大丈夫。それよりも、ご飯を食べられなかったせいで、猫の体調が悪くなることのほうがつらい。相手に合わせることが僕にとっては幸せなんです。恋愛も同じこと」

記号のように記した事実から、思い起こせる記憶を大切にしたい。
また別のノートには、天候や毎日の気温などとともに、トイレの回数や量、投薬の状況、猫の気になる様子などを詳細に記入。それはあくまで体調管理のためのデータであり、保坂さんの思いなどは一切綴られていない。
「その時考えていたことなどを書くと、それに囚われすぎて世界が小さくなる気がして。僕にとっては、思いはむしろ邪魔。簡潔な事実のほうが、大切なことを後からちゃんと思い出せます」

こうしたカレンダーやノートを、歴代の愛猫分、保管している保坂さん。
「これは生の記録。フィクションではこんなに熱心にはつけられません。これを見返すと、本当に生きていたんだなと改めて感じるんです」

『クロワッサン』1026号より

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