振り幅ある作品群の尽きぬ魅力に迫る『安野モヨコ展 ANNORMAL』
文・知井恵理
“ふるえる程のしあわせ”を求めて恋愛に爆走するヒロインから和の暮らしを楽しむ愛らしいキャラクターまで、自在に鮮やかに描き分ける漫画家・安野モヨコさん。デビュー30周年を記念した本展は、約500点の作品原画から創作の軌跡をたどる。
「魔法少女が活躍する少女漫画『シュガシュガルーン』と仕事や働くことを主題にした『働きマン』。2つは、少女の空想世界と社会人の現実といった相反する世界観ですが、実は同時期に連載されていた作品です。そうした振り幅の大きさが安野作品の特徴のひとつといえるので、本展では『女―男』『夢―現』など、対になる言葉を組み合わせた5つの章構成で作品原画を展示しています」(世田谷文学館主任学芸員・庭山貴裕さん)
『ハッピー・マニア』や『さくらん』といった人気作品の原画も、線の勢いや筆の“ノリ”が伝わってきそうなほど間近で閲覧できる。また、これだけ原画が並ぶと、人物の細部の切り取り方や構図のアングルが実に映画的ということも見て取れ、会場では動画を見ているような躍動感、ライブ感も味わえる。さらに、体調不良による休筆期間中も描き続けていた『オチビサン』の制作風景や、この展覧会のために描いた自画像イラストも見どころのひとつ。
「『オチビサン』は、ポショワールというフランスの版画技法を独自にアレンジした技法で彩色されていて、手仕事や色彩へのこだわりが伝わってきます。また、着物の女性を描いた美人画や、大正・昭和の文学作品の挿絵などの一枚絵には、漫画の躍動感とは違った緻密な描線や装飾的な美しさがあります。絵師としての一面も堪能してください」
昨年からスタートした連載『後ハッピーマニア』を含め、安野作品のすべてに共通するのは“模倣ではない、本当の自分の欲望や幸せとは何か”という問い。格好悪くても散々もがきながらも、あきらめずに幸せを追求し続ける主人公の姿やその作品群に、励まされること間違いなし。
『花とみつばち』 2002年
1999〜2003年『週刊ヤングマガジン』で連載。地味で冴えない男子高校生・小松が、モテるために自分磨きに奔走する恋愛コメディ。
『働きマン』2007年
2004年『モーニング』で連載開始。’08年から休載中。週刊誌記者として仕事に没頭する松方弘子の悩みや葛藤に共感する人続出。
『後ハッピーマニア』2019年
2019年〜『FEEL YO
UNG』で連載中。45歳になったシゲカヨが、結婚生活と男女関係のリアルに真正面からぶつかっていく。
『さくらん』2002年
2001〜2003年『イブニング』で連載。美人で気が強い遊女・きよ葉が、花魁になるまでの葛藤や恋、周囲で起こる愛憎劇といったさまざまな人生模様を描く。
『オチビサン』 2016年
2007〜2014年『朝日新聞』、2014〜2019年『AERA』で連載。主人公のオチビサンと仲間たちが綴る日常や四季のうつろいを綴る。
世田谷文学館
(東京都世田谷区南烏山1-10-10) TEL.03-5374-9111
営業時間:10時〜18時(入場は閉館30分前まで) 月曜、8月11日休館(8月10日、9月21日は開館) 料金・一般800円
※入場する際は日時指定のローソンチケットの購入が必要。
※臨時休館、会期変更の場合あり。
www.setabun.or.jp
(C)Moyoco Anno/Cork
『クロワッサン』1026号より
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