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【歌人・木下龍也の短歌組手】ふとした心のざわめきをなんと表す?

第41回全国短歌大会大会賞を受賞して以降、精力的に活動を続ける歌人・木下龍也さんが読者の短歌にコメントをする連載『短歌組手』。第2弾の募集にもたくさんの短歌が集まっています。ご応募ありがとうございました。応募作の中から木下さんが選んだ短歌を数回に分けて紹介していきます(短歌は引き続き募集中です)。

〈読者の短歌〉
銀行強盗に行こう とびっきりカワイイメイクで前歯デコって
(ラージライス/女性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
にこにこしながらきらきら襲撃するのでしょう。よい子は真似しないでね。

〈読者の短歌〉
警察だ 虫かご持って外に出ろ ワイングラスに麦茶を注げ
(小宮山倫太郎/男性/テーマ「夏」)

〈木下さんのコメント〉
あ、警察の方ですか。ちょうどよかった。さっき銀行強盗を計画しているひとがいたんで見に行ってもらえますかって、え?虫かご?はい。え?麦茶ですか?あ、この警官、やばい。

〈読者の短歌〉
チューブ入りわさびを渡す手が触れて 0.5秒 少女に戻る
(こむぎ/女性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
手と手が触れ合う一瞬に起こる心のざわめきを 「0.5秒 少女に戻る」と巧みに表現した1首。同じ本を取ろうとして、というありがちな場面ではなく「チューブ入りわさびを渡す」という特殊な場面なのでこの短歌がよりリアルなものに感じられます。舞台は食卓とかコンビニのレジとかですかね。

〈読者の短歌〉
半そではだめ、真っ白な君の腕 歯型をつけたくなるからだめ
(くらげ/女性/テーマ「夏」)

〈木下さんのコメント〉
「歯型をつけたくなる」のは愛おしい、独占したいという気持ちの表れなんでしょうかね。「半そでは/だめ、真っ白な/君の腕/歯型をつけた/くなるからだめ」と定型に収まっている短歌ですが、例えば

まっしろなきみの腕、だめ、半そでは歯型をつけたくなるから、だめ

と語順を入れ替えることで、ぶつ切り感なく読めるようになります。そういえば冒頭で、でしょうかねって他人事のように書きましたが僕はたまに甘噛みします。

〈読者の短歌〉
美味(うま)そうな月だったからベランダに出て歯磨きを見せてあげたよ
(鳳凰/女性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
遠くから見ると、ベランダで歯磨きをしながら月を見ている人。けれど、近寄って「何してるんですか?」と聞くと「 美味(うま)そうな月だったからベランダに出て歯磨きを見せてあげたよ」という報告を受けてしまう。遠くから見ていればよいものを、近寄って他人の世界に干渉するから、あなたの世界に亀裂が入る。その亀裂は非日常への入口だ。

自信がなくてもいびつでも、ぜひつくった短歌をお送りください。(撮影:木下さん)
自信がなくてもいびつでも、ぜひつくった短歌をお送りください。(撮影:木下さん)

木下龍也
1988年、山口県生まれ。2011年から短歌をつくり始め、様々な場所で発表をする。著書に『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』がある。

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