言語感覚に酔いしれる。2010年代のスゴい!詩歌集3選【エディターのおうち時間】
1.若き歌人の叫びが詰まった歌集。
累計8刷30,500部と自費出版がメインの短歌集においては異例の大ヒットとなった『滑走路』。主演・水川あさみで映画化が決定しています。
作者の萩原慎一郎さんは32歳で自らの手で命を絶ちました。この歌集はその死から半年後に発刊され、遺作となったもの。
掲載されている短歌295首には自身の非正規雇用という境遇や、ままならない恋について詠んだものが多く含まれています。
誰かと繋がりたいと思う気持ち、大勢の中に埋もれたく無いという気持ち、変わりたい、成長したいと願う気持ちが短歌という形式の中で蠢いています。
「こんなにガツンと感情を揺さぶられるとは思わなかった」というのが初めて読んだ時の感想。短歌に対する印象を変えてくれるエネルギッシュな一冊です。
2.ぎゅっと詰まった言葉に溢れる作者の真心
学生時代に詩人としてデビューし、現在は詩以外のフィールドでも活動されている最果タヒさん。『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は表紙だけでなく、中身もとても印象深い1冊です。2017年にはこの詩集を元に、石橋静河さん、池松壮亮さんを主演に映画化され大きな注目を集めました。
この詩集はどのページでも言葉がぎゅっと凝縮されて掲載されています。息継ぎは少ないものが多く、吐き出すように言葉が並べられている印象を受けました。言葉と言葉の繋がりが不思議なものも多く難解な印象を受けるかもしれません。
それでもふとした瞬間にはっきりと、力強く個の存在を肯定してくれる箇所が出てきます。そうした所がこの詩集の魅力。あとがきに作者の思いが綴られていて親切な構成だと思いました。
3.タイトルにがっちり心を掴まれて、内容でぶんぶん振り回される短歌集。
歌人・木下龍也さんの短歌集『きみを嫌いな奴はクズだよ』。思わず笑ってしまう、だけど言い切ってくれたことに感謝したくなるようなタイトルから、すでに木下ワールドは始まっています。
思わず手に取ってみると、タイトルからは想像できなかったポップな短歌がずらり。哀愁を漂わせるものがあれば、言葉遊びとしか思えないリズム重視のもの、シーンも視点もぶっ飛んでいるファンタジックなものなど、バラエティーに富んだラインナップ。約30文字の短い言葉の中に展開を作る、という短歌の楽しみも、短歌集を丸ごと読むという楽しみも、どちらも楽しめる1冊です。
「こういうことも詠んでいいんだ」と思わせてくれる、短歌の懐の広さに気づかせてくれますよ。
やまごや
『クロワッサン オンライン』エディター。年に数回の旅行が生きがい。普段は部屋にいることが多いので部屋を快適にしてくれるアイテムを集め中。今年の目標は体を鍛えて腕を2倍の太さにすること。
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