くらし

【山田ルイ53世のお悩み相談】不登校の娘がSNSを通じて知らない人と会っています。

お笑いコンビ髭男爵のツッコミ担当で、作家としても活動中の山田ルイ53世さんが読者のお悩みに答える連載。今回は中学生の娘が不登校になり、さらにSNSで危険な繋がりを持ってしまい、どうしたらいいかわからない相談者さんです。
  • 撮影・中島慶子

<お悩み>

中学2年の娘が中学1年から不登校です。
自分は生きていても迷惑かけるから死んだほうが良いと言います。
不登校のきっかけは、試験で頑張って成績は上がったのに、頑張りに匹敵するほどの褒めもなく、もっと頑張れ!とか、他人が出来ているのになぜあなたは出来ないのか?と言われて苦しくて、大人はみんな威圧的に言ってくる、怒る、この気持ちをわかってくれる人は居ないと。
先日親に嘘をついて、SNSで知り合った県外の男性の所に行ったり、夜に出かけて知らない男性からお金を貰ったりと、とにかく危ない状況です。
親が言ってもその危険行為が分からず、警察に相談しても、事件性がないと言われて何もしてもらえません。
今後、娘にどのようにしたら、気持ちを切り替える事が出来るでしょうか?不登校の間、山田さんはどのような心境で、誰からどんな言葉かけや行動をして欲しいと思っていたのか教えて頂ければ本当にありがたいです。どうかご指導のほど宜しくお願い致します。(すだちゃん/女性/医療関係に従事している40代女性です。小学5年生と中学2年の娘がいます。)

山田ルイ53世さんの回答

中学1年生から不登校だという娘さん。
そのキッカケが、「頑張って成績アップしたのに、思ったほど褒められなかった」、むしろ「『もっと頑張れ!』、『他人が出来ているのになぜあなたは出来ないのか?』と尻を叩かれた」ことだと聞いて、「……ん?そんなことで?」
と思う方がいるかもしれません。
しかし、こういった物言いが子供のやる気を削いでしまうケースは珍しくないでしょうし、そもそも立ち止まってしまう理由は人それぞれ。
この件はただの“引き鉄”で、彼女にとって「しんどいこと」が日々蓄積していたのかなと想像します。

不登校というのは、別に“世にも珍しい状態”ではない。
誰にでも起こり得る、人生の双六のひとマス。
生き方として“下手”かもしれませんが、“悪”でもないし“劣っている”わけでもない。
ただ一方で、中2から6年間“ひきこもり”だった筆者の経験上、これから先の人生が面倒臭くなるということは間違いなく言えます。
親として、その辺りのリスクをキチンと説明しておく、つまり、小言を言うというのは決して悪いことではない。
何より、SNSで知り合った男性と会ってお金を受け取ったり、「自分は生きていても迷惑かけるから死んだほうが良い」などといった言動は心配。
効果のほどはさておき、筆者などは、スマホを取り上げ解約する等、実力行使に出るのも正直“あり”だと思うのですが、いかがでしょう。
暴力などは無意味なので論外ですが、親として適度に取り乱すのは、大事かつ当たり前のことかと。
いずれにせよ、同じ娘(我が家はまだ小1と0歳児ですが……)を持つ親として、相談者のご心労はお察しします。

「不登校の間、どのような心境で誰からどんな言葉をかけて欲しいと思っていたか」とお尋ねの相談者。
筆者の場合、“不登校”に加え“ひきこもり”だったので、娘さんのケースに当てはまるか分かりませんが、それでもよろしければ。
自分で言うのも口幅ったいのですが、中学受験に成功し、名門校と呼ばれていた学校に潜り込んだ後も成績優秀、サッカー部ではレギュラーと順風満帆でした。
そこから“ひきこもり”となった。
外に出ないので、外見はぶくぶくと肥え太り、部屋に閉じ籠り日に当たらないため肌も真っ白。
かつて優等生だった頃のプライドも捨て切れない。
結果、過去の自分と今の自分の間で生じた乖離に耐え切れず、やることを見失い、
「人生が余ったなー……」
という虚無感に苛まれる日々でした。

周りはと言えば、どうにかして筆者を部屋から連れ出そうとクラスメートや先生方が訪ねて来てくれたことも最初の内はあった。
さながら「天岩戸の神隠れ」。
今振り返れば、有難い話ですが、
「順三(筆者の本名)大丈夫か?頑張れよ!」
という彼らの励ましの言葉も当時は全く心に響かなかった。それどころか、
「憐れな同級生の見舞いで、内申点アップか?」
とか、
「そもそも、この現状を何とか出来ると思っている時点でおこがましい!」
などと頑なにシャットアウト。
同じく訪ねて来てくれた先生の、
「何も勉強だけが全てじゃない!頑張れ!」
といった台詞にも、
(そうか!)
と目から鱗……とはならず、
「あっ、この人、僕の学歴社会での成功はもう諦めてるんだ……」
と逆に絶望してしまうような捻くれ具合。
もう手が付けられません。

通っていた学校は、筆者の実家から電車・徒歩合わせて2時間ほどとかなり遠方です。
“にもかかわらず”の訪問ですから、本当に心配してくれていたのだなと今では思うのですが、あの頃の筆者の心は、テフロン加工のフライパンよろしく、どんな言葉も“キーン!”と跳ね返すばかり。

両親からの、
「早く家を出て行け!」
「学校行かないなら、仕事見付けて働け!」
とのストレートな叱咤、プレッシャーの類など言わずもがな。
不安や焦り、苛立ちを煽られこそすれ、
「よし、頑張ろう!」
とはならなかった。
いや、まだ「ひきこもり」という言葉も無く、「登校拒否」という時代。
親とて手立てもなく、彼らのストレス、絶望感はかなりのものだったでしょう。
今では申し訳なかったなと思っています。
人それぞれ、ケースバイケースなのは大前提として、そういう心持ちになることがあるという参考になれば幸いです。

娘さんの言う“大人達”に、相談者、つまり“親”が含まれるのか、文面からは判然としませんが、
「私の気持ちを分かってくれる人はいない!」
と嘆く娘さんに、筆者が何か言えることがあるとすれば、
「その通り!」
ということでしょうか。
とかく“共感”が持て囃される昨今。
しかし、他人の心中を完全に理解し、我がことのようにシンクロ出来る人間など現実にはいません。
「出来る!」
という方がいるなら、それはもはや、異能、超能力の類。
常人のなせる業ではないのです。
ただし、「分かってくれようとする人」はいる。
たとえ、それが「分かった気になっている」だけだとしても、多少お節介で鬱陶しかったとしても、有難い……まあ、これまた“今なら”そう思うという話。
“ひきこもり”当時は、先述の通りですから、偉そうには言えません。

筆者が口を出すまでもなく、既にそうされているでしょうが、「死んだほうが良い」などという言葉はしっかり否定しておきましょう。
場合によっては、カウンセリングや心療内科等、専門家の助言を仰ぐべきかもしれません。
これは、娘さんのみならず、相談者ご自身にとってもそう。
子供と言えど、一人の人間。
そして、親も人間。
“成人”は“聖人”ではないのです。
あまり、ご自分を追い詰めぬよう、話を聞いてもらえる場を確保しておくのは大切なことだと思います。

山田ルイ53世●お笑いコンビ、髭男爵のツッコミ担当。本名、山田順三。幼い頃から秀才で兵庫県の名門中学に進学するも、引きこもりとなり、大検合格を経て愛媛大学に進学。その後中退し、芸人へ。著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)、『一発屋芸人列伝』(新潮社)、近著に『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)。
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