くらし

【山田ルイ53世のお悩み相談】ギター教室の運営のことで頭がいっぱいです。

お笑いコンビ髭男爵のツッコミ担当で、作家としても活動中の山田ルイ53世さんが読者のお悩みに答える連載。今回は先行きが不安なギター講師の方からの相談です。
  • 撮影・中島慶子

<お悩み>

41歳のギター講師です。現在100名程の生徒さんのギターレッスンをしています。
収入は悪くないのですか、1年の内、毎年必ずどこかの月で一カ月に10人から20人ほど一気に辞めて行かれます。
辞められる理由は仕事が忙しくなった、受験、ギターに挫折した、など様々な理由であり、正直私の力ではどうしようもない理由もあり、割り切らないといけないのは分かっていますが、それでも10人程の生徒さんに一気に辞められると本当に落ち込みます。
「私のレッスンが悪いのだろうか?」「この先、ギター教室を運営していけるのだろうか?」「このまま生徒さんが減り続けたらどうしようか?」「新入会者が無かったらどうしようか?」などと考えたら夜も眠れません。
私には家のローンがあり小学四年生の娘がいます。ギターが好きで選んだ職業なのに、今では毎日ギター教室運営の事ばかり考えており、正直、仕事が苦痛ですし辞めたいとも思っています。しかし私は41歳までギターしかやって来なかったので、これ以外には何も出来ません。学歴もありません。私は今後どうすれば良いでしょうか? また生徒さんがこれからも辞めた時はどのように考えたら良いのでしょうか? アドバイスをよろしくお願いします。

(ポンタ/女性/ギター教室を運営している41歳のギター講師です。妻と10歳の娘がいます。)

山田ルイ53世さんの回答

「正直、仕事が苦痛ですし辞めたいとも思っています」というポンタさん。こういった場合、
「一度、ギターから離れてみては?」
といった助言が妥当かと思うのですが、
「自分なら……」
と考えると、先行き不安でとてもじゃないがスッパリ辞める決断など出来ないので、軽々には口に出来ません。
申し訳ない。
相談者ご自身、「今後どうすれば良いでしょうか?」、「生徒さんがこれからも辞めた時はどのように考えたら良いのでしょうか?」と教室を続ける意思はあるようにお見受けしますので、その前提で。

それにしても、“門下生常時100名”とは、また大所帯。
「どこかの月で毎年10~20名一気に辞める」と気に病んでおられますが、仰る通り、「仕事」や「受験」は相談者にはどうしようもないこと。
「ギターに挫折した」というのも、裏を返せば8~9割の方は毎年必ず残るわけですから、指導力が問われるような数字ではないかと思います。
如何せん経営は素人なので、断言など出来ませんが、他の習い事でも起こり得ることでしょう。
いわば、“新陳代謝”。
割り切りましょう。
繰り返しますが、“8~9割残る”というのは凄い数字。
しかも、「収入は悪くない」とくれば、羨ましい限りです。
「41歳までギターしかやって来なかった」、「これ以外には何も出来ません」とやや自嘲気味で仰っていますが、これまた、聞きようによってはカッコいい台詞。
いや、決して皮肉ではありません。
当方、しがない“一発屋”。
「俺、お笑い以外に取柄の無い人間なので、フッ……」
と寂し気に微笑んだところで絵になるほどの実績も立場もないからです。
その点、相談者は生徒さん100名を抱える教室のトップ。
間違いなく、“成功”されています。

一方で、「40歳」という年齢は、人生で起こり得る色々なことを、「一応ひと通りやった」地点。
言ってみれば、ドラクエを一度クリアしたようなもの。
開けなかった宝箱、割っていない壺、話し掛けていない村人等々、多少の取りこぼしはあれど、一応ラスボスを倒しエンディングは拝んだという状態。
日々同じことの繰り返しで、どうしても“2周目感”が否めない。
結果、モチベーションがゲシュタルト崩壊した、といったところでしょうか。
これは、身につまされます。

筆者も個人事業主の端くれ。
そして、何度も言いますが、“一発屋”でもある。
正直、先々のことなどあってないようなもので、何とも心許ないスケジュール。
更には、中2から6年間“引きこもり”、高校はスルー、「大検」を取って何とか潜り込んだ大学も早々に中退と、履歴書はボロボロで学歴など無いに等しい。
相談者の葛藤、尽きぬ心配や不安を他人事とは思えません。

とは言え、
「お笑い辞めたいな……」
とは思わない。

決して、思い描いたような人生でもないし、今現在「なりたい自分」になれているわけでもありませんが、“なれた自分でとりあえずやっていく”をモットーに、そこそこ機嫌よく生きている次第です。
筆者や相談者くらいの年齢に差し掛かると、ある程度「自分を諦めてやる」という作業を意識的にする必要があると常々思っています。
言い換えるなら、「自己満足」。
とかく“ジコマン”は悪いことのように言われがちですが、筆者はそうは思いません。
何故なら、自分で自分に満足することほど難しいことは無いからです。
その点、相談者は実績は十分。
ギター1本で、40過ぎまで飯を食い、家族を養いローンを払ってきたご自分をもっと誇って、大いに、“ジコマン”していきましょう。

さて、全く別のジャンルに転職することなどお勧めはしませんが、“チラす”、“ズラす”というのは有効かもしれません。

月並みなアドバイスで恐縮ですが、ここは一つ、YouTubeチャンネルでも立ち上げ「弾いてみた」系の動画を配信するとか、路上ライブを敢行するなど、自分の楽しみとしてのギター演奏を経営の合間にされてみるのはいかがでしょう。
全く違うことではなく、「ギターで何が出来るか」を考え、フィールドを少しズラしてみる。
そして、「金にならないことをする」のも大事です。
筆者にとってのそれは、ラジオでしょうか。
ここ10年、常に2~3本のレギュラーを持ち、毎週喋っています。
ぶっちゃけた話、ギャラは雀の涙ですが、好きでやっていること。
そういう現場があってこそ、他の仕事とのバランスも取れ、精神衛生上非常に良い効果をもたらすのだと思うのです。
お金になればなお良いのは当然ですが……。

山田ルイ53世●お笑いコンビ、髭男爵のツッコミ担当。本名、山田順三。幼い頃から秀才で兵庫県の名門中学に進学するも、引きこもりとなり、大検合格を経て愛媛大学に進学。その後中退し、芸人へ。著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)、『一発屋芸人列伝』(新潮社)、近著に『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)。
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