くらし

紅茶について、ゆっくり話そう。【狩野知代さん×大西泰宏さん 対談】

コーヒー焙煎士と紅茶専門店店主が「喫茶」の今、豆と茶葉を取り巻く環境問題についても考える。
  • 撮影・辻本佳祐 文・平井莉生

スリランカ以外の紅茶については全くの初心者です。(狩野さん)

紅茶は少しのコツでとっても美味しく淹れられるんですよ。(大西さん)

(左)大西泰宏さん Uf-fu(ウーフ)店主。(右)狩野知代さん 焙煎士、グラウベルコーヒー店主。 話の間に大西さんが淹れてくれた紅茶は、淹れたてはもちろん、冷めてからも美味しくいただける。

前回に引き続き登場の、コーヒーの焙煎士で東京・世田谷『グラウベルコーヒー』店主の狩野知代さんと、兵庫・芦屋の紅茶専門店『Uf-fu』店主の大西泰宏さん。前回は大西さんが最新のコーヒー事情や、狩野さんのコーヒーへの愛情を深く知る回となった。今回は狩野さんが『Uf-fu』を訪れ、紅茶について話を聞く。

狩野知代さん(以下、狩野) 実は以前、スリランカのセイロンティーについて少し勉強したことがあるんです。

大西泰宏さん(以下、大西) スリランカの紅茶なら、(紅茶研究家の)磯淵猛(いそぶちたけし)先生に学ばれたのでしょうか。私が心から尊敬していて紅茶の師匠だと思っている方です。

狩野 そうなんです。磯淵さんは昨年亡くなられましたが、とても素敵な人でしたね。

大西 私も先生の人柄に惚れ込んでいました。27歳の時に先生のスリランカツアーに参加して、実際に生産地に足を運ぶことの大切さを知ったんです。

狩野 大西さんは今も買い付けでよく生産地に足を運ばれるのでしょうか。

大西 必ず行って、自分の目と舌で確かめるようにしています。前回狩野さんに教えてもらったように、コーヒーは生豆からの工程で自分の好みの味わいを目指して“作品”を作ることができると思うのですが、紅茶の場合は、生産地の時点でほぼ味が決まります。良い品質のものを選んでお客様に提供するのが私たちの仕事。だから、茶葉を見極める「目利き」が重要なんです。

狩野 なるほど。そのために日頃から気をつけていることはありますか?

大西 私自身は化学的な添加物は体に入れないようにして、スタッフにもそう指導します。味覚が敏感になり、微細な味の違いを感じるようになります。

狩野 それはすごい。現地ではどのようにテイスティングするのですか。

大西 例えば今ここにあるダージリンは、インド・ダージリン西部のタルザム茶園で2019年に収穫されたものの「33番目」です。

狩野 番号は、何の違いですか?

大西 生産時期によるパッキングの順番になります。同じ畑で採れた同じ茶葉でも、少しの条件の違いで味が大きく異なるんです。昨年訪問した現地では、20番台から30番台後半までがずらっと並んでいました。それらを全て試飲して、33番だけを購入しました。

狩野 たくさんの中からその品番だけが大西さんの御眼鏡にかなったということですね。

大西 はい。前後の品番も試しましたが、私の好みではなくて。

狩野 繊細かつ、大きな違いがあるのでしょうね……。生産者から購入する以外にも仕入れの方法はありますか?

大西 バイヤーから購入するかオークションです。生産者から購入するのが一番安いと思うでしょう? それが逆なんです。

店内にあるキッチンで、インドの茶園から直接届いた大量のサンプルを1杯ずつテイスティングする大西さん。
大西さんが惚れ込む中国の「キームントレゾア」。青山の店舗では淹れ方を学び、喫茶を楽しむイベント『お茶の時間』が不定期開催。
Uf-fuのオリジナルブレンドティーは、人工的な香料などは一切使用せず、天然の素材のみで提供される。

狩野 コーヒーとは少し違いますね。それはどういう理由で?

大西 生産者から直接購入する人にはプライオリティがつき、優先的に一番豊富な種類から選ぶことができるんです。だからこそ、良いものはきちんとした値段で取り引きされます。そこで選ばれなかったものがバイヤーの元に降りていって、そこでも売れなかったものがオークションにかけられるというのが主な流れです。

狩野 なるほど! 良い茶葉を見せてもらえるのは、生産者と信頼関係を築いた業者だけなんですね。でも、それはコーヒーも同じかな。

大西 生産者とは数年に1度じっくり会うより、1時間ずつでも数カ月ごとに会ったほうが仲良くなれる。これは磯淵先生に教えてもらったことです。だからできる限り足を運びます。現実的な話としてはたくさん購入するほうがありがたがられるので、私たちもより良い品と出合うためにロット数を増やしたいと思っています。

狩野 なるほど。たとえばコーヒーでは、豆をブレンドすることで味を底上げする文化があります。1足す1が3にも4にもなり、異なる美味しさを創造できるのが大きな魅力です。紅茶だとどうですか?

大西 紅茶におけるブレンドは、イギリスで発達した技術ですね。昔は、赤道を通って90日くらいかけて中国からイギリスへ茶葉を輸入していました。その間に茶葉はどうしても劣化してしまう。そこで販売する際の価格や品質を均一化させるために、ブレンドという技術が発達したんです。

狩野 美味しい紅茶を庶民にも届けるための工夫だったんですね。

大西 そうですね。ただ私たちは小さな会社ですからブレンドは大手に任せて、心の底から感動した茶葉だけをお客様に適正価格で販売するのが使命だと思っているんです。

サンプルの紅茶がずらりと並んだ、テイスティングの風景。
茶葉を見ながら、「これは火を入れすぎですね。ちょっと焦げ臭い香りがしませんか」と大西さん。試してみるとそのとおりで一同びっくり。
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