外から与えられたものに頼って生きていくのは止めようと思いました――秦早穂子(映画評論家)
1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、ヌーベルバーグを日本に広めた人物の言葉を読み解きます。
文・澁川祐子
外から与えられたものに頼って生きていくのは止めようと思いました――秦早穂子(映画評論家)
秦早穂子さんは、1931年に東京都で生まれ、フランスのソルボンヌ大学に留学。映画の買いつけや評論を手がけ、『勝手にしやがれ』や『太陽がいっぱい』などの名画を日本に紹介した人物です。
昭和ひと桁世代の秦さんにとって、生き方に大きな影響を与えたのが敗戦でした。
<皇国少女で、いつかお国のために死ぬ覚悟>でいたのに、敗戦を機に<大人の変わり身の速さはすごかった>と語るように、これまで信じていたものがすべてひっくり返ってしまいました。そのときから、<外から与えられたものに頼って生きるのは止めよう>と心に決めたのです。
<がむしゃらに生きることもやめたわ。モノを買うとか、家を建てるとかいう気持もない。どうせ焼ければなくなってしまうんだ、っていつも思う>
そんな醒めた目をした彼女の心をとらえたのが、フランス映画の世界。ヌーベルバーグの黄金期のパリに身を置き、新しい時代の感覚を日本に持ち込みました。
しかし、当時のパリでは女性蔑視もあり、<仕事上は女という部分を意識的に消していった>と語ります。そしてインタビューを受けた当時は、47歳で独身。いまの状態を聞かれて<自由でありたいと思った女の、不自由の結果の自由ーーかな>とさらりと答えるところに、自らの感覚に従って時代を切り拓いてきた女性ならではの、しなやかな強さが垣間見えました。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
広告