くらし

コーヒーについて、ゆっくり話そう。【狩野知代さん×大西泰宏さん 対談】

  • 撮影・辻本佳祐 文・平井莉生

香りに鳥肌が立ち、飲んで感動し、冷えても美味しくて驚いています。(大西さん)

大西さんにはエチオピアの「シェカ」をおすすめしようって決めてました。(狩野さん)

大西さんの一口目を見守る狩野さん。淹れたてのコーヒーの香りが漂う、店内のイートインスペースで。

コーヒーのルーツ・エチオピアの、マザーツリーを訪ねて。

大西 エチオピアはコーヒーのルーツと言われている土地ですよね。

狩野 そうなんです。今でもエチオピアにはコーヒーが自生しています。2017年にはエチオピアに、コーヒーの“マザーツリー”を見に行きました。現存する最古の木という位置付けで、現状“マザーツリー”と言われているものです。南スーダンに近いカッファ(コーヒーの語源になったエリア)まで飛行機を乗り継ぎ、車で2時間走った先で小さなロッジに泊まり、さらに2時間歩いて森の中へ。守り人の案内役のおじいさんが木の近くまで連れて行ってくれました。

大西 なかなかハードな旅ですね!

狩野 そうなんです! でもすごく疲れていたのに、森の中に入ると不思議と元気が満ちてきて、とても素晴らしい体験でした。木が病気になっても自らの力で治してしまう、完璧な森だと言われているんです。

大西 やはりコーヒーも紅茶もそもそも植物ですから、原木に心惹かれる気持ちは同じですね。私も中国の雲南省にある紅茶の“マザーツリー”を見に行こうとしたことがありましたが、あいにくの悪天候で断念しました。

狩野 それは残念でしたね……。さぁ、大西さん、そろそろ一杯いかがですか。こちらの豆から、お好きなものを選んでください。

大西 ぜひいただきたいです。(コーヒー豆の匂いをひとつずつ嗅いで)これ、すごく良い香りですね!

狩野 それはエチオピアの「シェカ」という豆ですよ。「フォレストコーヒー」といって、森林が減っていっている中、環境を保全するためのプロジェクトの一環で作られています。私も大西さんにはこれがおすすめだと思っていたんです!

大西 私、これ大好きです。香りに鳥肌が立ちました。ところで商品説明の札に書いてある「ナチュラル」というのは何のことでしょう。

ウォッシュド? ナチュラル? コーヒーを精製方法で選ぶ。

狩野さんが焙煎した豆には、ひとつひとつ説明が添えられている。
豆のサンプルを手にし、香りの違いを楽しむ大西さん。「どれもとても香り高くて個性豊か。コーヒーって興味深いですね」。
浅煎りか深煎りか、豆によってベストな淹れ方で丁寧にハンドドリップ。
「あ、表面に雲のような湯気ができていますね。紅茶でもできるんですよ」と言う大西さんと、興味津々で覗き込む狩野さん。

狩野 それは精製方法なんです。コーヒーの精製方法は大きく分けて3つあります。「ウォッシュド」という水洗式と「ナチュラル」という非水洗式、その間くらいの「パルプドナチュラル」です。「パルプドナチュラル」の中でも、環境保全の観点から水洗式の排水が法律で禁止されたコスタリカで独自に発達した精製方法のことを「ハニープロセス」と呼びます。

大西 精製とは、どの過程のことを言うのですか。

狩野 収穫したコーヒーの実を乾燥するまでの過程ですね。「ウォッシュド」は、皮と果肉をはぎ、中の種子を取り出す前の粘液質の部分を発酵槽に漬けた後、きれいに水洗いして乾燥します。「ナチュラル」は、収穫した実をそのまま干して脱穀します。「ハニープロセス」は、皮と果肉は剥がして粘液質は残したまま、水洗いせずに乾燥します。

大西 なるほど、どんな味の違いがあるのでしょう。

狩野 「ウォッシュド」は、皮や果肉の影響を受けていない比較的スッキリした味わいです。「ナチュラル」は収穫後そのまま乾燥させるので、水洗式にはない独特の果実感を感じる風味になります。「ハニープロセス」は粘液質をどれだけ残すかによって味が変わるので、農園によって麹のような香りがしたり、ストロベリーやタマリンドのような香りがするところも。各農園が切磋琢磨しながら研究を進めてバリエーションも増えていて、今の流行とも言えるかもしれません。

大西 狩野さんはどの精製方法の豆を選んでいるんですか。

狩野 今うちにあるのは「ハニープロセス」が2種類、「ナチュラル」が3種類、「ウォッシュド」も置いています。精製方法を意識してコーヒーを買ってみるのも面白いですよ。

大西 私が飲んだ「シェカ」は、「ナチュラル」の深煎りですね。最近は、一般の人のコーヒーの知識も相当高くなっていますよね。

狩野 「スペシャリティコーヒー」という名前が認知されるようになってからさらに進み、深い知識を持つ人が増えたように感じます。

大西 コーヒー好きの方は、どういう基準で豆を選ぶのでしょうか。

狩野 今は、産地はもちろん豆の生産背景に興味を持つ方、焙煎度合いや精製方法のお好みなど、お客様のニーズもとても細かくなってきました。焙煎日を確認する方もいらっしゃいます。うちでは「産地と焙煎度合い、精製方法」を明記して、あとは直接話したり香りを嗅いで選んでもらいます。

大西 私は紅茶の繊細な味わいを感じとるために日頃から極力添加物を摂らない生活を送っていて、より興味を持ってくれたお客様にもそれを勧めているんです。今日はコーヒーを豆の精製方法で選ぶという最新の知識も増えて、コーヒーにしても紅茶にしても、物を選ぶ基準が変化しているのを感じられました。次回は、紅茶のお話ですね。

店内には狩野さんの著書はもちろん、コーヒーに関する本が並ぶ。

グラウベルコーヒー
週末の開店時をめがけてファンが集まる。●東京都世田谷区代田5-7-9 金・土曜13~18時、日曜14~17時営業。glaubell.net

『クロワッサン』1013号より

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※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

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