くらし

『マリー・アントワネットの 衣裳部屋』著者、内村理奈さんインタビュー。「西洋服飾史を語る時に避けて通れない人」

  • 撮影・黒川ひろみ(本) 山本ヤスノリ(著者)
アントワネットの生前からその記録が執り行われたという、246着分の圧巻の衣装目録が巻末にまとめられている。 平凡社 3,200円
内村理奈(うちむら・りな)さん●1968年、東京生まれ。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程単位取得満期退学。博士(人文科学)。日本女子大学家政学部被服学科准教授。専門は西洋服飾文化史。著書に『ヨーロッパ服飾物語』(北樹出版)など。

国立西洋美術館で開催された『ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史』。名門一家が所蔵した至宝が一堂に会する中、圧倒的なオーラを放つ作品が、ヴィジェ=ルブランの〈フランス王妃マリー・アントワネットの肖像〉(1778年)。着用したドレスは優美な王妃の宮中正装。輝くレースやリボン、絹糸の刺繡や金の房飾り。ベルサイユでの派手な暮らしを心配する実母、ハプスブルク家のマリア・テレジアに贈るため、お気に入りの女流画家に描かせた23歳当時の肖像画だ。240年の時が流れても、世界で最も有名なお姫さま。アントワネットの衣裳から、当時の貴族の暮らしと王妃の生涯を読み解く一冊を、服飾研究者の内村理奈さんが書き上げた。

「17〜19世紀の西洋服飾文化史をずっと研究してきましたが、服飾を語る時にやはりマリー・アントワネットを避けては通れないんですね。尊敬を払って遠くから見てきた人なので、彼女のことはいつかはちゃんと取り上げたい、と思っていたところに、この本のお話をいただいたんです」

全5章からなる物語の第1章、異国へ嫁いだアントワネットの花嫁衣裳について語った「銀色の花嫁衣装」。その一部は、内村さんの過去の論文が基となった内容だ。アントワネットが嫁ぐ際に、高価な白いリネンの布類「トルソー」をどれくらい持参したのか。18世紀パリの富裕貴族の娘が嫁ぐ際の事例から、王室婚礼のリアルな内幕を描く。またアントワネットの結婚祝賀祭典の騒ぎで命を落とした132名のパリ市民の遺体調書を読み込み、平民の衣服のポケットの中身をリストに。王室とは違った、リアルな夢が溢れたたくさんのポケット。内村さんが描くのは、ノンフィクションのオリジナルストーリーだ。

パリのファッションリーダーに返り咲いた、王妃への夢と憧れ。

「19世紀に新聞の大きさのファッション週刊誌『ラ・モード・イリュストレ』が出版されたんです。精密なファッションイラストと文章で構成されたきれいな冊子で、あまりの人気に年に一度合本にして売られたほど。しかも型紙付きで、自分で縫えるんです。流行の肩掛けに『フィシュ・マリー・アントワネット』、クラシックな髪型に『コワフュール・マリー・アントワネット』など、王妃の名前を付けていて。かわいいんですよ」

もっとも憎まれた王妃として最期を迎えたが、死後80年ほどでパリの服飾業界にまたアントワネットのブームがやってきたのだ。

「私はマリー・アントワネットに対して、悪い印象を全く持っていないんです。シュテファン・ツヴァイクが書いた伝記『マリー・アントワネット』を読んで、かわいそうな女の子だなあと。あの地位に就き実力以上のことをやらざるを得なかった。彼女の不名誉になることは書かなくていいのかなと」

王妃が愛した衣裳部屋は、時空を超えて真実を語り始める。

『クロワッサン』1012号より

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