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南極について、ゆっくり話そう。【阿部雅龍さん×渡貫淳子さん 対談】

  • 撮影・青木和義 文・嶌 陽子

南極冒険を終えてしばらくは、街の音の多さがとにかく気になって。(阿部さん)

趣味の篠笛を披露する阿部さん。次回の南極冒険にも持参する予定。

南極で目の当たりにした現実。環境に対する意識が変わった。

渡貫 南極に行く前は、ゴミは分別して集積所に持って行けば自分の義務は果たしたと思ってた。でも、南極に行って、そうじゃないってことを実際に体験しました。ゴミはすべて、燃やせるものは燃やして灰をドラム缶に入れ、日本へ持ち帰ります。

阿部 今は南極の環境を守るために、すべてのゴミを持ち帰る決まりがありますからね。ちなみに外来生物の持ち込みも禁止されているので、日本で有名になったタロとジロのような、犬ぞりの犬も今はいません。

渡貫 水も雪を溶かして作る。観測隊では水を作る担当の隊員がいるんですが、阿部さんは自分で作っていたんですよね。一日どれくらい?

阿部 5リットルですね。それを一日かけて飲みきる。そうしないと血流が滞って凍傷になってしまうから。

渡貫 日本だとゴミ処理場の作業を見ることはまずないし、「断水」と言われたら、ただ待つしかない。でも南極では担当の隊員が、時には寝ずに水を作っていたり、ゴミの処理だって仲間が昼夜問わず行っている。それを目の当たりにするうちに、自分にできることは何か、自然と考えるようになりました。いかにゴミを減らすか、どうやったら水を節約できるか。これは隊員全員に言えることだったと思います。

阿部 あと、南極では息を吐いても白くならないんですよ。そもそもなぜ息が白くなるかというと、エアロゾルという大気中の塵に、息の中の水蒸気が付着するから。南極にはその塵、つまりPM2・5みたいなものがないんです。

渡貫 昭和基地でも、基地から離れると白くならないけれど、トラックの排ガスは白く見える。人間が生活するだけで環境を汚染するということが、実際に目で見えてしまうんですよね。帰国後は、環境のことを前より意識するようになりました。

阿部雅龍さんの南極体験

2018年11月、南米チリから南極行きの飛行機に乗り、南極のベースキャンプ・ユニオングレイシャーに到着。
単独で55日間、南極を歩いた阿部さんの冒険のお供はaib o。「電気節約のため、2〜3日に1度だけ起動しました」
2019年1月16日、南極点到達。日本人初の「メスナールート」を踏破。次なる目標は「しらせルート」。

南極では自分の五感が頼り。 頬に当たる風で方角を知る。

阿部 南極で過ごした後、街に戻ってしばらくは、音がすごくうるさく感じました。世の中にはこんなに音があるんだって、改めて気づいた。

渡貫 よく分かります。南極では、音を聞くというのは危険を察知する行為でもある。氷がきしむ音でクレバスの危険を予測したり。その癖が抜けないまま、日本に帰ってきてしまったので、しばらくはつらかったです。

阿部 南極にいた時は風の音しかしない時もあったから。風がやむと本当に無音になって、逆に不安になりました。

渡貫 風は方角を知る手段でもありますからね。南極点付近から常に風が吹き下ろしているので、それで方角がどっちかが分かる。

阿部 たとえば左頬に風が当たると南の方角が分かるので、ひたすら左頬に風が当たるように歩く。真っ白な世界を歩く際、コンパスは使ったけれど、GPSはほとんど使わなかったです。

渡貫 大げさな言い方だけれど、日本に帰って人間としてのスペックが一段下がった気もします。さて、阿部さんは次に「しらせルート」での南極点到達という挑戦が待っていますね。

阿部 個人でほぼすべてを準備しているので、スタート地点までの飛行機の手配など、いろいろと難関がありますが、来年秋には必ず実現させます。

渡貫 私を含め、多くの人が応援しています。どうか無理せず、ご安全に。

阿部 ありがとうございます! 無理は程々にして(笑)、必ず夢を叶えます。

南極に関する情報も充実の「船の科学館」。
東京・品川にある船の科学館では初代南極観測船「宗谷」の内部見学が可能。南極に関する展示も充実。●東京都品川区東八潮3-1 TEL.03-5500-1111 開館時間:10時〜17時(宗谷乗船は〜16時45分) 入館無料 ※現在、船の科学館はリニューアル中につき「宗谷」および「船の科学館 別館展示場」のみ公開中。

阿部雅龍(あべ・まさたつ)さん●2019年、日本人初ルートによる南極点単独徒歩到達を達成。’20年に長年の夢である、前人未到の「しらせルート」での南極点到達を目指している。

渡貫淳子(わたぬき・じゅんこ)さん●第57次南極地域観測調理隊員。3度のチャレンジを経て合格し、母親の立場で初の調理隊員として第57次南極地域観測隊に参加。著書に『南極ではたらく』(平凡社)。

『クロワッサン』1012号より

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