くらし

南極について、ゆっくり話そう。【阿部雅龍さん×渡貫淳子さん 対談】

  • 撮影・青木和義 文・嶌 陽子

人間が生活するだけで環境を汚すことを南極で目の当たりにしました。(渡貫さん)

「日本に合わせて季節ごとの行事もしていました」と渡貫さん。

寒さのせいで味の好みも変わり、観測隊には体重が増える人も。

阿部 渡貫さんは30人の隊員の方々の食事を毎日作っていたんですよね。

渡貫 もう一人の調理隊員の人と交代ですが。南極に食糧を運べるのは年に一度。出発前にすべての食料を手配し、その中でやりくりしていました。

阿部 隊員の方々には、どんな食事が喜ばれました?

渡貫 意外と好評だったのが、「夜の朝定食」。隊員の人たちは、昼食、夕食は揃って食べますが、朝食は食べない人もけっこういるんです。夜勤明けで寝ている場合もあるので。それで、ふと「朝食に出している焼き魚や納豆を食べていない人もいるな」と思って、夕食をそういう献立にしてみたんですよ。あれは喜ばれましたね。

阿部 なるほど。それはうれしいかも。

渡貫 阿部さんは、南極ではどんなものを食べていました? ソリに積んで、自分で引いていくんですよね。

阿部 ずっとマイナス30度くらいのところにいるから、呼吸するだけでカロリーを消費してしまう。だから、一日6000キロカロリー摂ると決めていて。

渡貫 6000キロカロリー……。

阿部 一日にバター1本、ミックスナッツ200gは食べる。あとサラミ、チョコレートとか、とにかくカロリーや脂質が高いものです。それでも冒険後は体重が5㎏ほど落ちちゃう。

渡貫 寒いので体が高カロリーのものを求めるというのは、観測隊でも同じ。食べる量も日本にいる時と比べて増えるし、味の好みも変わります。日本にいる時は甘過ぎて食べられないアイスなんかもぺろっと食べられちゃう。一方、基地外で除雪などのハードな肉体労働はするものの、基地内にはそれほど広いスペースがないので、案外運動不足になるんです。だから、観測隊には帰国時に前より太ってしまう人が多いんですよ(笑)。

阿部 あははは。でも、1年以上氷の世界で過ごすとなると、食は圧倒的な楽しみになるでしょうね。

渡貫 阿部さんは冒険中に「あれが無性に食べたいなあ」と思ったりしたことはなかったんですか?

阿部 もともとそんなに食に興味があるわけではないので。でも、味噌汁は好きで、フリーズドライのものを嗜好品として持って行って、3日に1度の贅沢として飲んでましたね。

渡貫淳子さんの南極生活

隊員の食事を作る以外にも、屋外での土木作業や除雪作業、雪上車の運転なども、渡貫さんの仕事のひとつだった。
南半球で冬至に当たる時季に行われる一大イベント「ミッドウィンターフェスティバル」で会席料理を作る。
60以上の建物からなる昭和基地。厨房は食堂やバー、病院、通信室などと共に管理棟と呼ばれる建物内にあった。
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