島﨑今日子さんが薦める、女の一生の2作品。
文・三浦天紗子
{女の一生}
女性の評伝を上梓してきた島﨑今日子さん。自身も大の「自伝、評伝好き」だという。
「高校時代、瀬戸内寂聴さんの『美は乱調にあり』を読みました。そこに書かれた反逆する女たちの姿がウーマンリブが台頭してきた時代の空気と合っていて、自然とああいうものを読みたい書きたいと強烈に思うように。きれいごとではない、本当を追求した作品が好きですね」
そんな島﨑さんが勧めるのが、「女の一生」を考えさせる2冊。
『狂うひと』は本誌で連載も持つしまおまほさんの祖母で、作家でもあった島尾ミホの評伝だ。
「名作といわれる私小説を新しい視点で読み解いた傑作評伝であると同時に、一級の文芸批評になっています。梯さんがダンボール1000個分もある資料と格闘し、外科医のように『死の棘』を腑分けしたイメージが浮かびました。特に、男性文芸評論家たちが作り上げたミホのイメージを覆したことや、夫婦のパワーバランスの変化、つまり『書かれて幸せだったとき』と『書かれる対象となって支配されていく』関係を緻密に分析していくところは、興奮します」
『女優 岡田茉莉子』は女優として生き抜いた運命を自らが回顧。
「生い立ちに由来する暗い影を自覚しながら、スター街道を行く。映画界は望んだ場所ではなかったけれど、吉田喜重という稀代の監督と出会い、女優という仕事を自分のモノにしていった。ひとりの女性としても魅力的な人です」
何が幸せかが不確かな時代こそ、実在の人物の肉声がわかる本との出合いを勧めたいと島﨑さん。
「他者の人生であっても、『この気持ち、わかる』『自分も同じだ』と思える瞬間が幾度もあるはず」
共感や救いを得られるのが、「女の一生」を読む醍醐味。
『クロワッサン』1010号より
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