フライト2万時間の講師が見た、世界のマナー。【橋本文香さん】
撮影・青木和義、黒川ひろみ、谷 尚樹 イラストレーション・山口正児 文・薄葉亜希子
ところ変われば、マナーも変わる。30年間客室乗務員としてさまざまな国を訪れ、それを体感してきたマナー講師の橋本文香さん。挨拶ひとつとっても、「日本では当たり前のおじぎ。イスラム諸国では神様に行うものとされ、人に対しておじぎはしません。世界の一般的な挨拶の基本は握手ですが、両手ではしない、目上の人より先に手を出さないなどの作法があります」。
ほかにフランスの公共トイレは使用後消毒のシャワーが降ってうっかり濡れる、あるいはかつてロシアでは高級店でも便座がないという話があったり、アメリカではチャイムを押す前にコートを脱ぐと失礼にあたるなど、国民性や文化の違いが生み出すエピソードにはこと欠かない。以下に挙げたのは、橋本さんが特に印象的だったというワード。海外でつい恥をかかないためにも参考に。
ノックの回数
海外では状況によってノックの回数が異なるので注意が必要。2回のノックはトイレ専用。また3回はプライベートノック、4回はオフィシャルノックとなり、仕事の場では4回叩くのがマナーと言われる。
旅グラス
レストランで日本人がやりがちなのが、飲んだグラスをテーブルのあちこちに置くこと。グラスが1カ所に落ち着かないことから「旅グラス」と呼ばれ、ウェイター泣かせの行為とされる。ウェイターが置いた場所に戻すようにしよう。
鶏(にわとり)コミュニケーション
話を聞いているサインであるうなずき。日本人のうなずきの多さは海外ではかなり気になるようで、日本人を揶揄するジェスチャーとしてまねされることも。うなずく代わりに「I see」「Right」などと答えるとスマート。
ニーハオトイレ
「ニーハオ」と隣の人と挨拶ができてしまう、壁のない中国の公共トイレ。都市部では見なくなったものの観光地を離れれば、広い空間に便器が並ぶだけということも。マナーというより予備知識として押さえておこう。
乗り物で靴を脱ぐ
日本人は人前で靴を脱ぐことに抵抗がなく、飛行機や電車に乗るとついやってしまうが、他の国ではNG。靴を脱ぐのは人前でズボンをおろすのに匹敵するほど恥ずかしい、という外国人もいるようだ。
ヌードルハラスメント
「ハラスメント」というほどいやがられるのが、麺をズルズルとすする音。日本では美味しさを伝えるが、海外では気にする人が実に多く、食事中のゲップやオナラの音に等しいとされる。音を立てて食べるのは厳禁だ。
橋本文香(はしもと・ふみか)さん
日本マナー・プロトコール協会認定講師。日本航空に30年勤務。2万時間を超えるフライト経験から得た、活きた知識をもとに即実践できるマナーを伝えている。
『クロワッサン』1007号より
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