くらし

【紫原明子のお悩み相談】発達障害と精神疾患があるので結婚は諦めるべきでしょうか。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は難しい疾患を持ちつつ結婚を望む女性からの相談です。

<お悩み>
現在35歳の女性です。 私には発達障害と精神疾患があり、障害者雇用によるパート勤務と障害年金で何とか一人で生活しています。
将来結婚をしたいと思い、婚活パーティーなどにも参加したのですがなかなか出会いがありません。
もしあったとしても障害と病気を理由に結婚を断られてしまうのではないかと不安になります。 また相手の方に迷惑をかけてしまうのではないかと考えたり、自分の心の中で、結婚をすれば生活苦から逃れられるという思いがあり、それは甘えではないかと考えてしまいます。
現実を見て結婚は諦めた方がいいのでしょうか?
(相談者:まゆ/女性/35歳女性 発達障害と精神疾患を重複して持っており、障害者手帳所有。7年程の療養の末、現在は障害者雇用による販売職アシスタントとして働き、障害年金を受給して一人暮らしをしている。)

紫原明子さんの回答

まゆさんこんにちは。ご相談ありがとうございます。
7年もの長い療養からよくぞ社会復帰されました。大変だったでしょう。頭が下がります。たとえ正規雇用であったとしても、ただ生きていくことすら決して楽ではない今の世の中で、人生のパートナーを得て、生活苦から逃れたいと願ったところで、そんなまゆさんを、誰が非難できるでしょう。

何より結婚するということは、必ずしも自分だけがサポートされ、生かされる側に回るというわけでもありません。相手をサポートしたり、相手がしんどいときには負担を肩代わりする側に回る可能性を持つということでもあります。それでもOK!と双方がそのリスクを了承するから結婚するのです。だから、相手に迷惑をかけるかもしれない、という懸念は今のところ一旦保留にして、まずはこの人と結婚したい!と思うような人と出会った後で考えることにしましょう。

さて、ではどうやって出会うか、ということなんですが、私にはかねてよりひとつだけ持論があります。それは今の世の中、選びたい人と選ばれたい人とで言えば、選ばれたい人の方が間違いなく、圧倒的に、多い、ということです。

もしかするとこれは前にもこのお悩み相談で書いたような気がしないでもないんですが、今、多くの人がまゆさんと似たような自信のなさを抱えています。障害があるから、持病があるからといった理由に限らず、若くないから、見た目がよくないから、バツイチだから、頭が良くないから、お金がないから……などなど、さまざまな理由から、自分は誰かの特別な存在になれないに違いない、と思っています。

でも、やっぱりそれが寂しいので、多くの人が心のなかで、さながらポケモンのように、あらゆる事情をおしても尚「君に決めた!」と、信頼して自分を抜擢してくれる、ポケモンマスター・サトシの出現を待ちわびているのです。

しかし世の中に「選びたい人」たるサトシはごくごく僅か。だからこそサトシがフィールドにちょっと現れたら、そりゃもうあちこちからワッとポケモンが群がって、罵り合い、奪い合い、ともすれば戦争が起きます。そんな中では、争いを勝ち抜くタフネスを身につけた、極めてよく訓練されたポケモンだけが、死屍累々を残して、バトルフィールドを去っていくのです。勝ち獲ったサトシを小脇に抱えて。

と、そんな勝者になれるかっていったら、とてもなれないじゃないですか……。だからね、私は思うんです。本当のブルーオーシャンは、サトシを探すことではなく、サトシになることなのだと。つまり「君に決めた!」と選ぶ方になればいいと思うんです。

……そんなこととても自分にはできない、と思われるかもしれません。だけども私、大変僭越ながらそんな姿勢というのは、よくよく考えると謙虚さでなく、対人関係における不誠実さではないかとも思うのです。

繰り返しになってしまいますが、世の中ではとても多くの人が、何かしらの事情を抱えて生きています。そこにはどうしても後ろめたさがあり、だからこそ、「それでも君に決めた」と他人に選ばれることには、自分のそれまでの人生すべてが肯定されるような、強烈な承認の快感を伴うのです。で、実を言うとだからみんなが欲しがっている、ということも少なからずあると思うのです。

でも、そうは言っても、そんな美味しい思いを自分だけが独占して良いはずがありません。自分の後ろめたさだけが許され、肯定され、自分だけが気持ちよくなるのではなく、相手の弱さだって同じように許し、肯定し、相手も気持ちよくする。これができるから対等な恋人同士になれるし、人生のパートナーにもなれる。デフォルトでどちらかが上、どちらかが下というような縦の関係性ではなくて、同じ目線に立てる横の関係が築けなければ、良い出会いになり得ないと思うんです。

障害や病気もまゆさんの一部には違いないのでしょうが、でもそれ以外にも、まゆさんがまゆさんたる個性ってもっともっと、無数にあるはずです。そのうちの何が迷惑になって、何が魅力になるかというのは、相手が決めることです。だから、それは相手に決めさせましょう。でも、まずはその決めさせる相手を、まゆさんが先んじて決めたらいいんじゃないでしょうか。

私のある友人は身体障害と発達障害を持っていて、物心ついたときから車椅子で生活しています。そんな彼女は、話を聞くかぎり、どうもかなりモテています。というか、そりゃモテるだろうな、と思ってしまうんです。何しろ彼女はいつも、自分の好きなところに行って好きなことをするし、楽しむことを知っている。自分にとって心地よい状況を作ることを決して諦めないのです。彼女がそんな日常的な行動の一貫として、素敵な恋人候補と出会って「君に決めた!」とやっているところは、実際に見たことはないけれど、優に想像がつくのです。

生活も、きっと楽ではないですよね。将来のことを考えて不安でたまらなくなる気持ちも、とても良くわかります。でも、そんな状況だからこそ、まずは今のまゆさんご自身をより楽しくする、より心地よくするための、時間の使い方、お金の使い方を「選んでいく」ということを心がけてみてはいかがでしょうか。私と付き合うのは迷惑かもしれない、なんてまゆさんが不安に思う必要のないようなパートナーとの出会いというのは、もしかしたらそんな日常の延長線上に潜んでいるのではないかと思うのです。

紫原明子さんへのお悩み相談はこちらから!

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE

※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

人気記事ランキング

  • 最新
  • 週間
  • 月間