50歳から、まだまだ行ける!新しいステップを踏み出した坂田阿希子さん。
撮影・青木和義、清水朝子、大嶋千尋 文・新田草子
愛してやまない洋食を、スペシャルな形で提供したい。
かくして始まった、店作り。坂田さんの目指すものは明確だ。まず、メニューは洋食、それも少数精鋭は揺るがない。小さい頃から「洋食っ子」だという坂田さん、洋食には深い思い入れがある。そのルーツは、新潟県の実家近くの、とあるレストラン。
「家族みんなで、本当によく通ったお店で。チキンソテーにビーフシチュー、カニクリームコロッケ。丁寧に作られた洋食がどれも抜群においしかった」
その記憶が、自身のレシピにも反映されている。取材に訪れたこの日は、メニュー候補のひとつ、チキンマカロニグラタンを試作中。工程それぞれに工夫があり、贅沢な味わいだ。
「どのレシピも私にとっては特別。それを多くの人に直接味わってもらえるのは、幸せなことだと思います」
内装は、「クールすぎず、力の抜けた感じ」が理想。ヒントを求め、お気に入りの洋食屋をはじめ、多くのレストランに足を運んだ。なかでも東京・青山のフレンチレストラン『ル ブトン』は、
「以前から大好きなお店。お料理はもちろんですが、内装の雰囲気が絶妙で」
シェフの杉山将章さんがとりわけこだわったのは、厨房の人間と座った人の目線が同じ高さになるカウンター。
「椅子が高いと、女性は床に足が届かず座り心地が悪い。それがいやで、椅子の脚を切って調整しました」(杉山さん)
そんな考え方も、「私の志向としっくり合っていて」と坂田さん。「寸法や動線を参考にさせてもらおうかと」
『ル ブトン』を開く際、自身もさまざまなことを考え抜いたという杉山さん。
「お店は、料理を作る人そのもの。自分が経験したこと、大切にしていることを注ぎ込んで、集大成として表現できる場です。それを忘れないで」
そんなアドバイスを寄せてくれた。レストランを開こうと決めてから3カ月。準備は急ピッチで進んでいる。
「何ごとにもタイミングってあるんですね。アトリエが見つからなかったのは、この機会が待っていたからかもしれない。やるからには全力でやります」
オープンはこの秋。もうすぐだ。
『クロワッサン』1003号より