くらし

【後編】ますます可憐に、華やかに。松坂慶子さんの幸せオーラの秘密。

女優として50年以上のキャリアを重ねた今もなお、フレッシュさ溢れる演技で皆を魅了する松坂慶子さん。その魅力の源を聞きました。
  • 撮影・青木和義 スタイリング・安野ともこ(CORAZON) ヘア&メイク・黒田啓蔵(Three PEACE) 文・一澤ひらり

「丁寧に暮らせば、自然と演技に反映されるんです。」

松坂慶子(まつざか・けいこ)さん●1952年、東京生まれ。’70年に映画デビュー。『青春の門』『蒲田行進曲』『死の棘』など代表作が多数あり、数々の映画賞を受賞。’79年、主演ドラマの主題歌『愛の水中花』が大ヒット。2009年紫綬褒章を受章。

松坂さんにとって私生活の大きな変化は7年前、60歳の時に、お母さんがひとり暮らしをしていた実家へ家族全員で引っ越したこと。

「その1カ月前から近所の野良猫がうちに来るようになっていたので、その子も連れて行ったら母がすごく気に入りましてね。引っ越した日は一緒に布団の中で寝ていました(笑)。母はもう90を過ぎていますが、ありがたいことに元気でいてくれています。夫と娘たちに協力してもらいながら、ヘルパーさんの力もお借りしてなんとかやっています。介護は借りられる手は全部借りて、そのぶん笑顔で接することが大切だと実感しています」

とくに昨年、『まんぷく』の出演が決まってからは撮影のために約10カ月間、東京の家を離れて大阪暮らしを余儀なくされることに。

「母に伝えると、『行っていらっしゃい』って、笑顔で背中を押してくれたんです。それで出演する決心がついたのですが、撮影は月曜から金曜までなので、金曜の夜か土曜の朝に新幹線で東京に帰って、日曜の夜にまた大阪へ戻るという生活が毎週続きました」

そんなハードなスケジュールの中で松坂さんが演じた『まんぷく』の母親・鈴さんは、頑固で思い込みが激しくて口うるさいけれど、愛嬌があって憎めない、そんな可愛い人だった。

「母の生命力、がんばり方とか太陽みたいに笑うところとか、全部役作りに反映されて、困った時に相談すると的を射たことを言ってくれるし、母を頼りにやってきた過去を思い出しながら演じていましたね」

令和記念の大掃除、大片づけ。七夕に全部終わってバンザーイ!

今年に入ってようやくゆったりと過ごせるようになったという松坂さん。

「大阪で撮影する間は家のことが何もできなかったでしょ。令和になったことだし、新しい年を清々しく始めたくて、家族みんなで大掃除、大片づけをしました。娘たちも一生懸命によくやってくれて、どこのお店へ行ってお茶するよりも、自分の家でお茶を飲むのが一番落ち着くね!って思えるところまでスッキリした空間になるのをめざしました。7月7日の七夕に全部終わったんです。いまはもうごきげん。バンザーイなんです!」

夫はジャズギタリスト・高内春彦さん。ツアーで留守がちだが、暮らし上手な夫に家庭生活を助けられているという。

「彼は優しい、というか寛大ですね。ぼおっとしているようで全体のことをよく見ているんだと、最近やっと気がつきました(笑)。最初のころは何時間かかっても私がごはんを作るのを待ってるような人だったけれど、子どもが生まれてからは自分で作るようになって、パパッと手早くておいしいんです。いまは朝ごはんをお願いしてます」

時に夫は家事や育児も引き受けて、家族を守り続けてきた。

「そういう夫なので母にプリンやゼリーを買ってきてくれて、楽しそうに話しています。母も男の人のどっしりした存在があると安心するみたいですね」

自分の人生をちゃんと生きて、自分の中から役を作りなさい。

いまやっておかないと後悔する、やっておいたほうがいいと思ったことは優先してやる。それが松坂さんのスタンス。きっかけになったのは30代半ばで主演し、カンヌ国際映画祭審査員グランプリと国際批評家連盟賞を受賞した映画『死の棘』での、小栗康平監督との出会いだった。

「監督に、『いままでと変わる時期じゃないですか? あなたがこれから歳を重ねていく上で、中身で勝負しなきゃいけない時期に来てるんじゃないですか?』って初対面で言われたんですね」

それまで映画は監督のもので、女優は白紙から染まって役になるものだと思ってきた松坂さんには、それが目覚めの言葉になった。

「役は自分の中から作りなさい。自分の人生をちゃんと生きてくださいって小栗監督がおっしゃったんです。私ね、30半ばだったから、監督の言うことが痛いほどよくわかったんです」

松坂さんはこの後すぐに結婚。夫の活動の場であったNYで約7年間暮らして、2人の娘の母親にもなった。

「NYでは毎日が日曜日みたいで本当に楽しかったですね。子育てのときは仕事をセーブして、なるべく娘たちと一緒に過ごしましたし、私の場合は生活を丁寧におくることが自然と演技に反映されると思えるようになりました」

若いときは儚げで“セクシーな美人女優”として世の男性を虜にしてきた松坂さんだが、いまやおおらかで包容力のある母親役がぴったり。それは裏も表もなく、現在の松坂さんの姿なのだ。

「作家の宇野千代先生と対談した時に、『私はいま80歳の青春です。女の人は自分が充実していると思って生きていれば人もそう見てくれる。自分で自分を引き立てるたくましさがなければいけません』っておっしゃったのね。すごく励まされました。先生のお言葉を借りれば、私はいま67歳の青春です」

ワンピース10万8000円(ユキコ ハナイ TEL.03-6738-4877) イヤリング16万3080円、ネックレス8万6400円(共にカスカ)

『クロワッサン』1003号より

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