40代になるとようやく自分の歩く道が見えてきた。夏木さんがひとりで舞台をやってみようと1993年にスタートしたのが、自分の身体で表現するアートワーク「印象派」だ。そして、これはライフワークになっていく。
「モネやルノアールといった印象派の画家たちが、もっぱらインドアで絵を描いていた保守的な画家たちに対抗して、外に出て太陽の光の下で絵を描いてみようというムーブメントを起こしたでしょ? その気骨と反抗心に惹かれたんですよね」
企画・構成・演出をひとりで行い、パフォーマンスのために身体言語を磨き、自身を追い込んで高みを目指す。そんな途方もない作業に身を投じた。
「セリフに頼るのは好きじゃなかったので、体を使って笑ったり、怒ったりを表現したくて、『なんじゃこりゃ、こんなの見たことない!』っていう舞台を目指したんです。クリエーションだけでなく、資金繰りもやりましたが、気がつけば貯金がすっからかん。でも安定したいとは思わなかった」
「印象派」は、当初から8回までと決めていたが、その後はプレイヤーたちと創り上げるコンセプチュアルアートシアター「印象派NÉO」をスタート。国内外で高い評価を受け、来年6月には4作品目となる『ピノキオの終わり』が上演される。
「ひとりでやっていくことに体力的に限界を感じていたし、そこは仲間に補ってもらおうと思ったんです。踊れなくなったら、メンバーの身体言語に助けてもらおうと」
この26年間に及ぶ「印象派」シリーズは夏木さんを叩き上げ、真のクリエーターに成長させていった。
「物事の考え方がシンプルになりました。あるとき汗まみれで夢中になって踊っていて、ふと鏡を見たんです。そのときの自分の素顔を見て、この顔好き!って思ったんです。それまではメイクをしないと自信がなかったけれど、素顔も許せる。一生懸命やっていたり、打ち込んでいる姿はそれだけで美しいって思えました」