その「眠れない」の理由は? 睡眠外来を体験しました。
撮影・千田彩子 イラストレーション・田中麻里子
生活が後ろ倒しになると、やがて概日リズム睡眠障害に。
柳原さんによれば、健康的な睡眠は3つのポイントに支えられているのだという。すなわちそれは、睡眠の「質」と「量」と「リズム」である。
「ぐっすり、不足なく、毎日同じ時間帯で寝起きができているか、ということがとても大切で、この3つは相互に関連しあっています。で、田中さんのお話を伺っていると、どうやら主にリズムと量に問題がありそうですね」
就寝時間がまちまちである田中さんの日々の生活は、ベッドにつく直前まで仕事のことをしている場合が多い。すなわち、明るい机で資料をめくっていたり、それこそパソコンで作画をしていたり……。
「寝る直前まで明るい環境で過ごしていると概日(がいじつ)リズムが狂いやすくなります。概日リズムとは睡眠と覚醒のリズムを刻む体内時計のこと。体内時計は主に光で調整されているため、深夜に明るい光の刺激を受けると、体内時計が覚醒、つまり夜に目が冴えるリズムになってしまいます。田中さんもどちらかというと夜型の傾向ですよね」(柳原さん)
「はい。それに寝付きが悪い時はつい考えごとをしてしまいます。それでまた頭が冴えてしまう」(田中さん)
「布団で考えごとをするといつしかそれが癖になって、布団が考える場所になってしまいますよ」(柳原さん)
う、布団はやはり寝る場所であってほしい……。
かくして、田中さんの夜間の睡眠状態をより詳しく探るべく、1泊入院の睡眠ポリグラフ検査を受けることに。
「睡眠総合ケアクリニック代々木」では、この日、田中さんのほかにも10人の外来の患者がこの1泊入院検査を受けるとのこと。睡眠外来でわかる病気はざっと下段に示したとおり。ちなみに1泊入院検査は予約制で2〜3週間待ちが目安だ。忙しい国ニッポン、みなさん大なり小なりの睡眠にまつわるお悩みを抱えているのですね。果たして、田中さんの眠りはどこに問題があるのか?
睡眠外来でわかる主な病名一覧
睡眠時無呼吸症候群
大きないびきをかき、睡眠中に繰り返し呼吸が止まる病気。睡眠の質が損なわれると昼間に強い眠気を起こし、社会問題を招くことも。
特発性過眠症・ナルコレプシー
睡眠不足がなく、かつ睡眠中の問題がないにもかかわらず、強い眠気のために居眠りをしてしまう病気。ナルコレプシーでは、金縛りや情動脱力発作(笑う、怒る、など感情が高ぶった時に身体の力が抜ける症状)が生じる場合も。薬と睡眠習慣の調整で治療する。
不眠症
睡眠障害の代表ともいえる病気。高齢になるほど患者数は増えていく。入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟睡感不足などの症状がある。
むずむず脚症候群
主に夜間の安静時に、むずむずとした不快感が生じる病気。脚という名前がつくが、脚以外に生じることもあり、入眠困難の原因になりやすい。
周期性四肢運動障害
睡眠中の上・下肢に頻回に生じる周期的な動きのために、眠りが浅くなる病気。今回、田中さんも検査した脚のピクピク、PLMはこれを見るための指標。
概日リズム睡眠障害
睡眠、覚醒の時間帯が、社会生活を送る上で望ましい時間帯からずれてしまうもの。夜寝る時間が遅く、朝寝坊になる睡眠相後退症候群が代表的。
睡眠時随伴症
寝言、あるいは寝ている間に歩行や会話をしたり、物を食べるなどの異常行動をする病気。レム睡眠行動障害では、見る夢の内容に一致した言動が出る。
小児の睡眠障害
子どもの睡眠時無呼吸症候群、特発性過眠症、ナルコレプシー、むずむず脚症候群、睡眠時随伴症など。なるべく薬物に頼らない治療が行われる。