料理研究家・後藤加寿子さん、『日日の料理 びおら』オーナー・後藤すみれさんの着物の時間──和食も着物も、伝統を踏まえながら、自由に愉しんで
撮影・青木和義 ヘア&メイク・高松由佳 着付け・奥泉智恵 文・西端真矢 撮影協力・国際文化会館
娘と私はほぼ同サイズ。母娘で共有できるのも着物の良いところですね
東京・広尾の大通りから一本入った一角。和食レストラン『日日の料理 びおら』は、料理研究家・後藤加寿子さんと次女のすみれさんがオーナーを務める。茶道・武者小路千家家元に生まれた加寿子さんは、長年、茶懐石への深い造詣にもとづいた家庭料理レシピを提案してきた。びおらはそんな加寿子さんの料理哲学そのもの。厳選された素材から丁寧に調理された“最上質の日々の料理”を味わうことができる。
もちろん、加寿子さんもすみれさんも幼少期から茶の湯、そして、着物に親しんできた。
「我が家は父が着物に大変趣味があって、四季折々の茶席にふさわしい振袖や訪問着を誂えてくれました」と、加寿子さんが振り返る。父とは十三世家元有隣斎(うりんさい)宗匠のことだ。「ほとんどが日本橋にあった『満つ本(まつもと)』での誂えで、王道のどっしりとした古典模様は実は私の好みとは少し違っていたのですが、父のお見立てですからありがたく着ていました」
やがて結婚して京都を離れ、子育て中は着物を着る機会は少なかったが、
「一段落した時、これからは自分の好みの着物を着てみたいと思いました。まずは『ぎをん 齋藤』さんに伺って、古典の御所解(ごしょどき)文様でもすっきりとした柄行きの訪問着を誂えて」
それからは結城紬をはじめとして紬も存分に愉しみ、京都・御池通りの『衣司 武美』や先代市川團十郎丈を妻として支えた堀越希実子さんが手掛ける、古典を踏まえながらもモダンな感覚の着物を好んでいる。すみれさんも好みは加寿子さんと共通していて、
「たとえば東南アジアのバティックなど、外国の布を帯に使うコーディネイトが大好きなのは、母譲りです」
そんな二人が今日まとうのは、加寿子さんが能登上布、すみれさんが越後上布。ともに北陸の麻着物だ。
「夏の織物って一番面白いと思うんです」と、加寿子さん。「きれいにきれいに織って高く売ろう、そんな意図で生まれたものではなく、生活の中から織り出された布だから」
どちらも石川と新潟を旅した折に、土地の人と心を通わせて選んだものだという。
「夏織物は本来ふだん着ですから、植物布やざっくりとした織帯など、カジュアルな帯を合わせるのが一般的ですね。でも、今日はあえてエレガントな表情の組帯を選びました。組帯は紬から訪問着まで、しかも季節を問わず合わせられる万能の帯。そんな組帯によって上布をよそゆきに持ち上げ、意外性を愉しむコーディネイトです」
そういえば、二人が折々の茶席で使うという数寄屋袋も一般的な数寄屋袋とはまったく違う(上と右写真)。けれど用途にはぴったりの大きさで、何より真似したくなる新鮮な美を放つ。伝統の真っただ中に生まれた人だからこその、自由。茶の湯を革新した千利休のDNAなのかもしれない。
「びおらでは着物で料理を愉しむ“きものdeびおら”という会も開催しています」と、すみれさん。「一番の人気メニューはすき焼きコロッケで、家庭料理ですから、和洋が混ざり合っていて。着物も和食も今の時代に合わせて自由に愉しんでいきたいですね」
『クロワッサン』1147号より
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