コスチュームジュエリーデザイナー・泉川典子さんの着物の時間──「着物を着ると背筋が伸びます。新しい自分に出会えるのも魅力」
撮影・青木和義 ヘア&メイク・桂木紗都美 着付け・小田桐はるみ 文・大澤はつ江 撮影協力・富岡八幡宮
黒とグレーの醸し出す雰囲気と竹柄の帯がピタリとはまりました
黒とグレーのグラデーションが美しい『小千谷縮』(おぢやちぢみ/新潟県小千谷市付近で織られている麻の織物)を凛と着こなしたコスチュームジュエリーデザイナーの泉川典子さん。
「今日、初めて袖を通します。さらりとした肌触りが気持ちよくて、着心地がいいです。袖口や衿元から風が通り抜けていくようで、夏に最適の着物ですね」
合わせた帯は絽の名古屋帯。白地に竹が描かれ、節のところどころにさした銀がキラリと光り、アクセントになっている。
「竹はどんなときでも折れない強いイメージがあるので好きなんです。私も常日頃しなやかに凛としていたい、と思っています。ですからこの帯を見たときに、竹の伸びやかさの中にある力強さと緊張感に魅了されてしまいました。一目ぼれです」
モノトーンの世界のなかにあるエネルギーを自分なりに表現するために、
「帯揚げもグレーの濃淡にしました。帯留めは天然石のオニキスとパイライトを使った自作で、全体を引き締めるポイントにしました」
着物が好きで、新調するのが楽しみの一つ、という。
「何年か前から知人が主催する夏の屋形船のパーティーにおじゃまするようになり、そのドレスコードが『着物』。最初は手持ちの浴衣や夏着物を着ていたのですが、だんだんと来年はどんな着物にしようか? と考えるのが楽しみになって……。ここ数年はコロナ禍もあり開催されていませんでしたが、今年あたり再開されることを祈っているんです。それを見越して誂えてしまいました(笑)」
20代のころはお茶を習っていて、着物には慣れ親しんでいた。
「浴衣は自分で着られますが、やはりきちんとした装いのときはプロの手を借りています。お茶を習ったことで、日常の所作にも気を配るようになった気がします。そういえば着物のエピソードでこんなことがありました」
それは高校時代のこと。
「母から“もう体形も変わらないから、あなたの好きな色で着物を作ってあげる”と言われました。色見本を見せてもらい選んだのは鮮やかな牡丹色。気に入った色だったのですが、呉服店から“本当にこの色でいいのですか?”と何度も確認が入り……。でも、母は私の選んだ色で進めてくれて」
そして牡丹色の色無地が出来上がる。
「お茶会などで着ました。社会人になって、知人から大相撲観戦に誘われたので着ていったところ、後日、友人たちから“大相撲観戦したのね”と。どうもテレビに映ったようです(笑)。目立っていたんですね」
着物は気持ちを整える装い、と泉川さん。
「着物を着ると日常では意識しない所作や姿勢も、自然と意識するように。それが心を落ち着かせてくれたり、自分の軸を再確認させてくれるような気がします。また、着物と帯、小物の組み合わせ方ひとつで自分を表現できるのも魅力。夢は洋のエッセンスを融合させた着物をプロデュースすること。古典柄の上にビーズを立体的に縫いつけたら素敵だと思うんです」
『クロワッサン』1144号より
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