医師に聞く、40代〜50代の「痛み」の原因と今日からできる手軽なケア。
もはやそれが当たり前だと思っていませんか? でも諦める必要はないのです。
今日からできる手軽なケアを実践して、コリと痛みの悩みから解放されましょう。
撮影・青木和義 スタイリング・白男川清美 ヘア&メイク・大谷亮治 モデル・くらさわかずえ 文・嶌 陽子
そもそもなぜ、40〜50代になると痛みやコリに悩まされるのだろうか。
「この年代は身体的、社会的にさまざまな負荷がかかってくる年代。痛みの要因が、以前より格段に増えてきます」
そう話すのは、痛みの専門医である富永喜代さんだ。
「加えて更年期も要因の一つです。女性ホルモンの一つ、エストロゲンが減ると関節のしなやかさが失われ、血流も落ちてきます。こうしたことがさまざまな部位の痛みを引き起こすのです」
だからといって「年のせい」と諦めなければいけないわけではない。
「必要があれば病院を受診しつつ、工夫次第で自分でも痛みを和らげることはできます。痛みを我慢せず、できることを実践していきましょう」
痛みの種類を知る。
痛みには「炎症が原因の痛み」「神経が原因の痛み」「心理的要因で起きる痛み」があり、それぞれ対処法も異なるが互いに強く影響し合っている。40〜50代はこれらの痛みの要因がぐっと増えてくる年代だと富永さんは話す。
「この世代は子育てや介護、仕事と忙しい上に大きなストレスにもさらされている。関節や筋肉は長年の酷使により劣化し炎症を起こしやすくなるし、多忙で痛みを放置すると慢性的な神経痛に。まさに満身創痍の世代です」
●炎症が原因の痛み
■ 五十肩
■ 変形性膝関節症
■ 腱鞘炎
■ 関節リウマチなど…
上記のほか、捻挫や打ち身、やけど、さらには指を切った、膝をすりむいたといった外傷などもこれに当たる。多くが一過性で、原因となる炎症が治まれば痛みも消えていくのが特徴。
●心理的要因が原因の痛み
不安や日常生活で受けるストレスなどが原因で起きる。また、炎症や神経が原因の痛みが精神的ストレスとなってさらに痛みを増幅させるなど、お互いが密接に絡み合っている。
●神経が原因の痛み
■ 帯状疱疹あとの長引く痛み
■ 事故やケガなどで受けた傷の長引く痛み
■ 脊柱管狭窄症
■ ヘルニア
■ 関節リウマチなど…
何らかの原因によって神経に障害が生じ、それによって起こる。多くの場合、しつこく長引く慢性痛へ移行し、痛みの原因だった病巣が治った後も痛みを感じ続けてしまう。
痛みを我慢していいことなし。
忙しかったり、「年だから」と諦めたりして、つい放置してしまうコリや痛み。だが、我慢していると慢性的な痛みへとつながり、ますますひどくなっていく、と富永さんは警鐘を鳴らす。
「よく『痛みでは死なない』と言われますが、日々痛みを抱えながら生きるのはつらいものです。周囲にそのつらさを理解してもらえずに孤立し、生きる気力さえ奪われてしまうこともあります」
痛みに我慢強い人ほど寝たきりになるリスクが。
こうした心理的なつらさは痛みを増幅させるし、逆に痛みがストレスや不安を招くため、性格が怒りっぽくなってしまう人もいる。この負のスパイラルは全身の不調につながり、人間関係にも悪影響を与えかねない。
また、自分さえ我慢すれば、という頑張り屋の人ほど、調子が比較的よい日に動き過ぎてしまう傾向がある。
「すると無理がたたってかえって痛みが強くなり、動けない日が続いてしまう。それを繰り返すうちに、痛みを恐れて動くこと自体を避けるようになり、結果として寝たきりのリスクを高めてしまうことになるのです」
なお、手軽だからといって市販の痛み止め薬や湿布を多用するのは要注意。痛み止めにはエヌセイズ(NSAIDs)という消炎鎮痛剤が使われているが、これは急性の痛みに対してのみ効果的。長期連用すると胃腸障害、腎障害などが出ることが分かっている。
「痛みをないがしろにせず、正しい知識を身につけながら、適切な方法で和らげていく。そうすれば、人生はきっと変わるはずです」
痛みとどう付き合うか。
病院で治療を受けるにせよ、自分でケアするにせよ、覚えておきたいのは「痛みはゼロにならない」ということ。
「40〜50年酷使してきた体に対して、完全な無痛を求めることには無理があります。しかも痛みゼロを目標にすると、そこにはたどり着けないため、かえって自分自身を追い詰めることに」
この後で紹介するキーワードを参考に、セルフケアを心掛けながら痛みを軽くし、やりたいことができる体になる。それを目標にすることが大切だ。
「『趣味の編み物を再開したい』『生まれてくる孫の世話をしたい』など、自分なりの“ゴールデンゴール”を設定し、それに向かって小さな目標を一つずつクリアしていくと、達成感を得られて痛みも軽減します。そうやって痛みを上手に自己管理していきましょう」
●「VAS(バス)スコア」で痛みの変化を客観視する。
痛みの自己管理に欠かせないのが「痛みの客観視」。医療機関などで用いられる「VASスコア」(視覚的評価スケール)は左端を「痛みゼロ」、右端を「最悪の痛み」として自己評価する手法。「昨日の痛みは6くらいだったのに、今日は3くらいだからずいぶん軽くなった!」と肯定的に捉えられる人は治療の効果が出やすい。
痛みの部位別疾患リスク
●頭の痛み
緊張型頭痛/群発頭痛/片頭痛/脳出血/脳腫瘍/側頭動脈炎/顎(がく)関節症/三叉(さんさ)神経痛 など…
●肩の痛み
関節リウマチ/腱板損傷/狭心症・心筋梗塞/頚椎症/頚椎椎間板ヘルニア/肩関節周囲炎 など…
●股関節の違和感
リウマチ性股関節症/変形性股関節症/線維筋痛症 など…
●足の痛み
坐骨神経痛/関節リウマチ/変形性膝関節症/変形性足関節症 など…
●首の痛み
後縦靭帯(こうじゅうじんたい)骨化症/片頭痛/頚椎椎間板ヘルニア/頚椎症/脳出血 など…
●腰の痛み
筋筋膜性腰痛/急性腰痛(ぎっくり腰)/腰椎椎間板ヘルニア/腰椎分離すべり症/腰部脊柱管狭窄症/坐骨神経痛/大腸がん/膵臓がん/子宮がん など…
●手指の関節の痛み
へバーデン結節/ばね指/関節リウマチ/腱鞘炎/母指CM関節症 など…
紹介している疾患は考えられるリスクの一例。「単なる疲れだ」と見過ごさずに、長引く痛みは病院を受診して。なお、受診する科によって、最初に疑う疾患が変わってくる。今回あげたのはペインクリニックで検討されるもの。ペインクリニックでは、ブロック注射や鍼灸、漢方薬、運動療法、メンタルケアなどの方法を複合的に用いて、痛みの治療を専門に行っている。
“温める”のはもっとも手軽な対策。
痛みは、体が冷えると増幅する。冷えで血管が収縮し、血流が落ちると神経に対する酸素や栄養の供給が減ってしまうからだ。そこで、誰にでもすぐにできる対策が温めること。
「患部に締め付け過ぎないサポーターをする、ネックウォーマーやお尻の仙骨まで覆える腹巻きをするなど。手指が痛む場合は、ロングタイプのミトンもおすすめ。薄手で指が開いているタイプだと家事などもしやすいでしょう」
ただし、これらは3カ月以上続く慢性痛に対してのみ効果的。また、片頭痛は血流がよくなると痛みが増すので、温めるのは禁物だ。
“動かす”ことも大事。ごく軽いストレッチでもOK。
運動には筋肉の過剰な収縮を和らげる、血流を改善する、関節の可動域を広げる、神経系に作用して痛みの軽減につなげる、といった効果がある。
「激しい運動でなくても、ごく軽いストレッチ体操を1回行うだけでも体にはよい影響があることが分かっています」
痛いからといって動かさないでいると、筋肉や関節がますます硬くなり、痛みが慢性化するといった悪循環に。急性期の激しい痛みが和らいできたら無理のない範囲で少しずつ動かしたい。
「体を動かすことで、脳に新しい刺激を与え、ストレスを軽減するという効果も期待できます」
“痛みから心の距離を置く” 新しい体験をして脳に刺激を与える。
「痛みというストレスを感じ続けていると、脳がそのストレスばかりにフォーカスしてしまい、痛みがどんどん増幅することに。一度、脳のスポットライトを痛みから外すことが大事です」
富永さんのおすすめは、新しいことや、普段とは違うことをしてみること。
「脳に刺激を与えると、痛みから目をそらすことができます。入ったことのないお店に入ってみる、いつもの散歩ルートを逆まわりにしてみる、普段買わない野菜を買って料理してみるなど、日常の小さなことでもいいのです。生活の中で潤いを見つけて、痛みから心の距離を置く工夫をしてみましょう」
不安になるほどの強い痛みの場合は、聞き慣れた好きな音楽を聴くと、心が落ち着くこともあるのでおすすめ。
『クロワッサン』1086号より