からだ

医師に聞く、免疫のしくみと免疫力の上げ方。

疲れやすい人は食べ方や暮らし方がちょっと間違っていることが多いと、内科医で漢方医でもある工藤孝文さん。毎日の暮らし方を見直し、免疫力を強くする疲れない体の作り方を取材しました。
  • 文・韮澤恵理 イラストレーション・松元まり子

疲れをそのまま放置してはいけない。

疲れには、働きすぎやスポーツで全身が疲れるのはもちろん、目が疲れる、首が疲れるといった部分の疲れ、食べすぎて胃が疲れる、飲みすぎて肝臓が疲れるといった内臓の疲れ、交感神経と副交感神経のバランスがくずれる自律神経の乱れ、ストレスや人間関係、重圧などが原因で心が疲れるなど、その原因や感じ方はさまざまです。

持病が原因で、普通の暮らしでも疲れて感じることもあります。

最初は一時的な疲れで、一晩眠れば元気になるレベルです。しかし、うまく解消することができずに、疲れを持ち越すようになると、一年中重だるいという慢性の疲労へと進んでしまいます。

疲れの原因や症状はさまざまですが、共通するのは、疲れているときは免疫力が落ちることです。

免疫の仕組みは以下「免疫のしくみ」に示すように、外敵と戦うシステムですが、疲れるとこの仕組みが手薄になってしまうのです。普通なら追い出せる細菌やウイルスの侵入を許してしまったり、即座に撃退することができず、全身の病気へとつながったり、修復機能が落ちるために、回復が遅れたりします。

ちょっとした風邪ですむはずが、気管支炎や肺炎に発展したり、帯状疱疹(ほうしん)が発症するのはその例です。

この2つ以外に、自分を外敵と間違えて攻撃するミスプログラムの自己免疫疾患やアレルギー疾患がありますが、体調が悪いと、アレルギーや喘息(ぜんそく)なども悪化しやすいというデータがあります。

免疫力が落ちるのは免疫細胞が弱ったため。

免疫力が高いと病気にかかりにくく、かかっても軽くすみますが、疲れるとまず免疫力が落ちます。それは、疲れの回復が優先され、免疫細胞を作り出す力が弱くなったり、外敵に対する反応が悪くなったりすると、抵抗する力が減るためです。

ストレスや自律神経のアンバランスも一因となり、正常なホルモン分泌や体内時計のリセットができなくなり、細胞の再生がうまくいかなかったり、臓器を健康に保てず、疲れやすくなります。

腸を健康にすると免疫力が上がる。

免疫力には腸内環境が大きく関わっていることがわかっています。病原体は口から侵入することが多いため、消化器官である腸に特殊な免疫器官が備わっているのです。

小腸の内側にリンパ球が集まるパイエル板という腸管免疫器官があります。腸内細菌の影響を強く受けるので、腸内環境を整えると、免疫力が上がります。

腸内には、善玉菌、悪玉菌、日和見菌がいます。理想のバランスにするには、発酵食品などで善玉菌を補い、食物繊維やオリゴ糖など善玉菌のエサになる食材を摂るほか、短鎖脂肪酸を増やすのがいいこともわかってきました。

「腸内環境と腸管免疫の仕組み」

●パイエル板
小腸の内側にある絨毛の付近にある免疫器官。免疫に関わる白血球が集中し、腸内細菌の影響を強く受けている。

食事と運動、セルフケア。強い体は免疫力もある。

では免疫力を上げるにはどうすればいいのでしょう?

大事なのは、疲れた体をリセットし、元気な体に戻すことです。体の機能を生かせるように、体力をつけ、自律神経のバランスをとること。生活習慣病の原因にもなる肥満を防ぎ、必要な栄養をしっかり摂ること。よい睡眠で体のリセットをすることにつきます。

まず、疲れがとれる食事のコツを頭に入れておきたいもの。食事はすべての基本です。

次に筋肉。しっかり筋肉をつけると代謝が上がり、血流がよくなって再生を助け、健康を維持するホルモンの分泌も増えます。

ストレスや生活リズムの乱れを避け、疲れたときに早めに対処する方法も覚えておきましょう。

「免疫のしくみ」

(1) 外敵から守る
外から侵入する細菌やウイルスを体内に取り込まないための第1のバリア。皮膚や粘膜で物理的に外敵から体を守る仕組みのことで、皮膚はしっかり潤いを保ち、細胞と細胞の間にすきまがないほうがいい。粘膜は病原菌が入り込みやすいので、唾液や粘液を分泌して侵入を防いでいる。粘液には細菌などの細胞膜を破壊する成分が含まれているので、十分な分泌があることが必要。ドライアイやドライマウスなどは手当てを。

(2) 体内で守る
体内に細菌やウイルスが侵入すると、この外敵を細胞内に取り込んで分解する、白血球の一種であるマクロファージや好中球などによる第2の防御システムが働く。これが自然免疫。それでも抵抗しきれないときに、特定の外敵を狙い撃ちする第3の免疫機能が働く。これは適応免疫、獲得免疫と呼ばれ、T細胞やB細胞と呼ばれる活性化した白血球の一種であるリンパ球が活躍。

(3) 自分を攻撃
免疫のもう1つの側面に、自分の組織を外敵と勘違いして起こる自己免疫疾患や、免疫の過剰反応による花粉症や喘息などのアレルギー疾患などがある。外敵=抗原かどうかを判断する機能の誤作動で、異物を体内から追い出そうとして体内で作られる抗体が、大量生産されて起こる。通常は体を守る仕組みの暴走で、間違えて異物と認識されたたんぱく質の種類によって発症する病気が違う。

 ↓

●善玉菌(2割)
ビフィズス菌、乳酸菌など。
消化や吸収を助け、腸の働きを正常にする。免疫力を高め、ビタミンを作る手助けも。

●日和見菌(7割)
大腸菌(無毒株)、連鎖球菌など。
善玉菌が多いときには善玉菌を手助けし、悪玉菌が増えると一緒に有害物質を作ったりする。

●悪玉菌(1割)
ブドウ球菌、大腸菌(有毒株)など。
腸内を腐敗しやすくし、下痢や便秘の原因になる。有害物質が作られやすくなる。

工藤孝文

工藤孝文 さん (くどう・たかふみ)

内科医、漢方医

福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。帰国後、大学病院、地域の基幹病院を経て、福岡県みやま市の工藤内科で地域医療に携わる。著書に『やせる出汁』(アスコム)、『疲れない大百科』(ワニブックス)など多数。テレビ『ガッテン!』『ホンマでっか!? TV』などでも活躍。

『Dr.クロワッサン 免疫力を強くする、疲れない体のつくり方。』(2020年6月26日発行)より。

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