からだ

原因不明の「慢性腰痛症」、症状やセルフケア、痛みがひどい時の対処法。

明確な原因が特定できない腰痛について、整形外科医の伊藤晴夫さんに話を聞きました。
  • 文・山下孝子  イラスト・松元まり子 

【明確な原因が不明の腰痛(さまざまな要因が積み重なり起きる腰痛)】

慢性腰痛症(まんせいようつうしょう)

背骨は7個の頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5個の腰椎、1個の仙骨と尾骨から構成されています。頸椎から腰椎までの骨には背中側に「椎孔(ついこう)」と呼ばれる空間があり、椎孔が連続することで脊髄神経の通り道である「脊柱管」が形成されます。

脊髄神経は全身の動きをコントロールする中枢神経で、ここから出された指令は末梢神経を経て体の各部位に伝達されます。そのため脊髄神経を損傷すると、体に麻痺が残ったり、四肢が不自由になったり、運動機能の障害が生じてしまうのです。

この脊髄神経は基本的に一番上にある腰椎の位置あたりで終わり、そこから下は、細い神経の束である「馬尾(ばび)神経」になります。馬尾神経は5個ある腰椎に分布する「腰(よう)神経」、仙骨に分布する「仙骨神経」、尾骨に分布する「尾骨神経」に分けられますが、枝分かれした神経は周辺にある腰の筋肉や皮膚が受けた刺激を感知して脊髄神経を経て脳に刺激を伝えます。その結果、刺激が人間の体に腰痛として現れるのです。

慢性腰痛症は加齢や運動不足によって背骨を支える筋力が衰え、姿勢が悪化したことで腰回りの筋肉に負担がかかって痛む「姿勢性腰痛」や、運動などで筋肉が疲労して痛む「疲労性腰痛」がほとんどです。これらは骨や神経に支障が出ているわけではないため、レントゲンやMRIなどで検査をしても痛みの原因を特定することができません。

慢性腰痛症を改善し、再発を予防するには、運動不足で衰えた腹筋、背筋、大臀筋を鍛え、正しい姿勢を心がけるのが一番です。しかし「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉の通り、急に運動をしすぎると体内で酸素が大量に消費されてしまい、その燃えカスである乳酸や炭酸ガスなどの老廃物が筋肉にたまります。すると筋肉が硬くなり、腰痛が引き起こされてしまうのです。

適度な運動を無理せずに毎日続けることが、慢性腰痛症の最善のセルフケアといえます。

姿勢と運動量の次に注意しなければいけないのが肥満です。腰には体重と同じ重さの力がかかっているため、体重が増えれば腰の負担も増えます。ただ、お腹回りに脂肪がたまるタイプの肥満は特に警戒が必要です。突き出たお腹によって体重軸が前に移動するため、バランスを取ろうと背筋や大臀筋に負担がかかって腰痛が起きやすくなるうえ、骨盤が前に傾きすぎて背骨のS字状のカーブが崩れてしまうからです。

また、女性ホルモンのエストロゲンの分泌が減少することで、女性は更年期から太りやすくなります。若い頃から太っている人は体重に応じた骨格や筋力が成長とともについてきますが、中高年になって太った場合は、体重に応じた骨格や筋力が発達していないせいで、腰椎や腰回りの筋肉の負担が増えてしまいます。

このため、運動で筋肉を鍛えて体脂肪を減らすだけでなく、筋肉や強い骨を作る栄養が豊富な食事を心がける必要があります。

このほかに、冷えなどによって血行が悪くなって筋肉が硬くなることや、荷物を持つなど体の片側だけに負担をかけ続けることで、左右の筋肉のバランスが悪くなって起きる筋肉疲労などが、慢性腰痛症の要因とされています。

【痛みが出る姿勢による分類】

●後屈障害型(伸展障害型)
上半身を後ろに反らせた時に痛みが出る腰痛のタイプです。

[主な要因]
股関節や背中に負担をかけることで起きることが多く、スポーツや背伸びをした姿勢の時などに無理な動きをすることで発症します。

●前屈障害型(屈曲型)
上半身を前に曲げた時に痛みが出る腰痛のタイプです。

[主な要因]
悪い姿勢(中腰や前かがみなど)や無理な動作でハムストリング(太ももの後ろの筋肉)や背筋が疲労することで発症します。

【痛みがひどい時の対処法】

慢性腰痛症の痛みがひどい時は、痛む部位を15分以上温めることで血行をよくし、筋肉の緊張を和らげることで痛みが緩和されます。この時、市販のホットパックや使い捨てカイロ、さらに温湿布などを利用すると便利ですが、肌が弱い人は低温やけどをしたり、かぶれたりする危険性があります。その場合は、下で紹介しているタオルと電子レンジを使った自家製温湿布などもおすすめです。

ただし、10日以上たっても痛みが引かない、または痛みが強くなっていく場合は、腰痛を引き起こす病気を発症している可能性もありますので、病院で診察を受けたほうがよいでしょう。

【自家製温湿布の作り方】

(1)水で濡らしたタオルを絞り、電子レンジ対応のフリーザーパックに入れて1分~1分20秒ほど加熱する。

(2)加熱したタオルが熱すぎる場合は、少し放置して冷ます。なお、普通のビニール袋を使う場合は、タオルを加熱後に袋に入れる。

(3)乾いた別のタオルで(2)を包み、痛む部位にあてる。なお、包む用の乾いたタオルは熱を伝えやすいよう厚手のものは避ける。

【注意】一般的な腰痛の鈍い痛みは温めてケア!

明確な原因が不明の腰痛とは?

(どんな症状ですか?)【セルフケアによって予防や改善が可能な腰痛です】

二足歩行で生活をしている人間は、お尻の筋肉である大臀筋が背骨(脊柱)の土台部分である骨盤の角度を約30度に傾け、腹筋と背筋が背骨をサポートしているおかげで、重い上半身を支えることができています。裏を返せば、この3種類の筋肉が衰えてしまうと、人間は「正しい姿勢」を維持することが難しくなるのです。

背骨はゆるやかなS字状のカーブを描いているおかげで、約5キロある頭部の重量を分散させて腰の負担を軽減させていますが、3種類の筋肉が衰えて姿勢が悪くなると、背骨のカーブは崩れてしまい、負担が増えた腰が痛むのです。

こうした腰痛がいわゆる一般的な腰痛となります。明確な原因を特定できないため「非特異的腰痛」と呼ばれ、常に痛む「慢性腰痛症」と、急に激痛が走るぎっくり腰の「急性腰痛症」に分類されます。

伊藤晴夫

伊藤晴夫 さん (いとう・はるお)

整形外科医

メディカルガーデン整形外科院長。JCHO東京新宿メディカルセンター(旧東京厚生年金病院)元副院長・整形外科部長。岐阜大学医学部卒業。腰痛疾患や股関節疾患の臨床に長年携わり、一流アスリートの治療にもあたっている。『腰痛の運動・生活ガイド』(日本医事新報社)、『腰痛をすっきり治すコツがわかる本』(永岡書店)など、腰痛関連の著書・監修書多数。

※プロフィールは雑誌掲載時の情報です。

『Dr.クロワッサン 脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、ぎっくり腰もスッキリ! 腰痛の新常識』(2020年8月27日発行)より。

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