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医師に聞いた、「免疫力アップの秘訣はNK細胞を元気にすること」。

医師で腸管免疫の研究者でもある永田智さんにいまさら聞けない免疫力について教わりました。

文・及川夕子 イラストレーション・松元まり子

発酵食を摂って免疫力アップ、本当のところどうなのですか?

免疫力はとっくに低くなっている?!
免疫力はとっくに低くなっている?!

免疫は、病気から身を守るために体に備わった大事な機能です。しかし、健康だと思っていても、知らず知らずのうちに免疫力が低下していることがあります。

「免疫力は〝体力〟と言い換えるとわかりやすいかもしれません。一般に、年をとれば体力が落ち、病気にもかかりやすくなりますね。上のグラフのように、年をとることは、免疫力低下の要因の一つです」と、医師で腸管免疫の研究者でもある永田智さん。

免疫力アップの秘訣はNK活性を高めること

免疫力を測るのに、よく使われるのがNK活性というもの。

「体の免疫システムでは、さまざまな免疫細胞が働いています。大きく分けると自然免疫と獲得免疫の2つ。この中で真っ先に働く自然免疫の一つが、NK(ナチュラルキラー)細胞です。NK細胞の元気の度合いを、NK活性といいます」

NK細胞は、全身を巡回し、がんやウイルスを素早く見つけては真っ先に攻撃します。このNK活性が低いと、免疫力が低下して、感染症や病気にかかるリスクが高くなっていきます。

「通常、NK活性のピークは20歳ごろで、それ以降は低下してしまいます。ですが、個人差はあって、食事や生活習慣で高くも低くもなることがわかっています。たとえば、腸内環境を整えることも、NK細胞を元気にするポイントの一つです」

免疫の中でもNK細胞を元気にすることが大切です。

ワクチンや感染によって後から獲得する獲得免疫とは違い、自然免疫は、生まれながらに持っている免疫システムです。

その自然免疫の中でも、NK細胞は全身を回るパトロール隊であり、先陣を切って病原体と戦う頼もしい存在。さらに、病原体の情報を獲得免疫に伝える役割もあります。

「新型コロナウイルス感染拡大の際、高齢者の死亡率が高くなりました。その原因として、高齢者のNK活性が低いことが影響した可能性があります。NK細胞の数が少なかったり活性が低い場合、感染症にかかりやすく重症化もしやすくなります」と永田さん。

NK活性は、過剰なストレスや睡眠不足、乱れた食生活などでも低下してしまうため「免疫力を保つには、日ごろから睡眠をしっかりとって、栄養をつけておくことが大事です。また、ある種のプロバイオティクス(乳酸菌)には、免疫活性化作用があることが実験で確認されています」

NK細胞は、がんやウイルスをやっつける。
NK細胞は、がんやウイルスをやっつける。

下の図は、永田さんが例に挙げた実験の結果。風邪をひいた人(NK活性が落ちている状態)が、ある種の乳酸菌1日400億個を3週間飲用したところ、低下していたNK活性が回復したのです。

風邪で低下した免疫力が乳酸菌の摂取で回復

出典:Nagao F et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 64: 2706–2708 (2000)
出典:Nagao F et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 64: 2706–2708 (2000)
乳酸菌は低下したNK活性を回復させる。
乳酸菌は低下したNK活性を回復させる。
出典:Nagao F et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 64: 2706–2708 (2000)
乳酸菌は低下したNK活性を回復させる。

プロバイオティクスとは「腸内細菌のバランスを改善することにより、ヒトに有益な作用をもたらす生きた微生物」のこと。ヨーグルトや納豆、漬物などの発酵食品に含まれている乳酸菌、ビフィズス菌などがその代表です。

「実験でわかったのは、ある乳酸菌に、小腸で取り込まれてNK細胞を活性化する性質があるということです。ただ、NK細胞をはじめ免疫細胞の多くは腸に集結していて、腸内細菌とタッグを組んで免疫システムを働かせています。腸が丈夫でなければ病気にかかりやすいといえ、その点でも、腸内環境を整える発酵食品は、優れた食材であることは確かです」

アレルギー担当の免疫とウイルス担当の免疫のバランスをとることも大切です。

健康のため、「免疫力を上げよう」とは、よく聞く言葉です。免疫力って、高ければ高いほど、いいのでしょうか?

永田さんの答えは、「そうとは限りません。花粉症やアトピー性皮膚炎など、免疫反応が異常に強くなりすぎた結果、起きてしまう病気もあるからです」。

免疫のバランスをコントロールしているのが、獲得免疫の一つ、ヘルパーT細胞です。抗体(病原菌に反応する物質)を作る働きをし、主にウイルスやがんを担当するTh1型と、細菌・寄生虫を担当するTh2型免疫などに分かれます。このTh1/Th2バランスに均衡がとれている状態が、健康な状態だといえます。

しかし、現代の生活は、抗菌グッズやウイルス対策商品があふれ、クリーンな環境が保たれています。昔と比べると寄生虫が少なくなり、Th2は、戦う相手を失って活躍の場がありません。

そこで、Th2はダニや花粉などのアレルゲンにまで過剰に反応するようになり、勢力を拡大。逆に、Th1が弱ってきている傾向にあるといわれています。現代にアレルギーが増えている背景には、Th1/Th2バランスの崩れという現象があったのです。

現代人に多い免疫バランス
現代人に多い免疫バランス

免疫バランスの調整に乳酸菌が活躍

では、免疫バランスを整えるのによい方法はあるのでしょうか。

「プロバイオティクスの中に、免疫のかたよりを直す働きをするものが見つかっています。ある種の乳酸菌は、小腸で取り込まれてTh1型免疫を活性化する作用を持ちます。また、クロストリジウムという腸内細菌の一種は、ヒトのTレグ細胞(T細胞の一種)を活性化する酪酸(らくさん)という酸を大腸で作ることもわかってきました」

免疫力は強すぎてもダメで、バランスが大切。その調整には、乳酸菌の賢い活用もポイントになりそうです。

理想の免疫バランス
理想の免疫バランス

「乳酸菌の一種は、NK細胞やTh1細胞を元気にしてくれます。こうした乳酸菌の働く場が、腸なのです。」

医師に聞いた、「免疫力アップの秘訣はNK細胞を元気にすること」。
  • 永田 智

    永田 智 さん (ながた・さとる)

    東京女子医科大学 小児科学講座主任教授

    順天堂大学医学部卒業。同大学院修了。医学博士。日本小児科学会理事・専門医。研究分野は免疫、アレルギー、栄養、消化器、腸内細菌学。

『Dr.クロワッサン 最新版 免疫力が上がる食べ方』(2020年5月28日発行)より。

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