40代に多い椎間板ヘルニア。神経が圧迫され、痛みやしびれの症状が現れる。
撮影/角戸菜摘 文/石飛カノ イラストレーション/安ケ平正哉
ここからは腰痛全体の約15%を占める特異的腰痛の話です。病名のつく腰痛には代表的な疾患が3つあります。その筆頭は人口の約1%が罹患する腰椎椎間板ヘルニア。
「男性では20歳から40歳の間の年齢で発症することが多い疾患ですが、女性の場合はとくに30代後半から40代に多く見られます」
椎間板は背骨と背骨同士を連結して背骨をしなやかに動かし、骨にかかる衝撃をクッションのように吸収する役割を果たしています。
「椎間板の外側は線維輪(せんいりん)という弾力性のあるバウムクーヘンのような構造の組織から成り、中心部に髄核と呼ばれる柔らかいゼリー状の物質を含んでいます。線維輪に亀裂が入り、中心部にある髄核が椎間板の外に押し出された状態を椎間板ヘルニアと呼びます」
髄核が外に飛び出ると腰痛を発症しますが、その髄核が背骨の中の脊柱管という空間を通る神経を圧迫すると、脚の痛みやしびれが出現。
「神経圧迫による症状が進行すると、神経が麻痺して足に力が入りづらくなったり、動きにくくなってつまずきやすくなります。足首に力が入らず転倒するケースも」
ひと口に腰痛といっても、疾患によって痛みが出やすい動作には違いがあるという。
「ヘルニアは前かがみの姿勢になると鋭い痛みが生じるというのが特徴です。急性期の対応として、日常生活ではできるだけ前かがみにならないような注意が必要」
とはいえ、日本の常識の「安静」は世界の非常識。ヘルニアの持病を抱えていても少しずつカラダを動かすことは不可欠。
「カラダを動かすときには腰を後ろに反らす運動を取り入れましょう。腰を反らす体操としておすすめなのは、床にうつぶせになって腰を反らせるマッケンジー体操です。痛みを感じにくい動きで、徐々にカラダを動かす習慣を身につけることが重要です」
こんな症状です
● 腰や脚に痛みやしびれがある
● 前かがみになると鋭い痛みがある
● 脚に力が入らない
急性期の対応
● 前かがみの姿勢をとらない
● 腰を反らせる体操をする
● 安静はほどほどに
椎間板ヘルニアのメカニズム
上から見た椎間板。上がお腹側、下が背中側。右のヘルニア状態では、中心の髄核が飛び出して神経を圧迫している。
保存療法プラス運動、 内視鏡手術という治療法も。
ヘルニアがどの椎間板に起こるのかで、痛みやしびれを感じる箇所は異なるといいます。最もヘルニアが起きやすいのは、第4腰椎と第5腰椎の間と、第5腰椎と仙骨の間の2か所。
そして、ヘルニアによる神経圧迫が非常に強いと、脚の動きが麻痺するだけでなく、まれに脊柱管の中の排尿や排便に関わる神経まで麻痺して、機能しなくなることがあるとのこと。
「こうなると一刻も早く神経の圧迫を解除しないと後遺症を残してしまうので、緊急手術が必要になります」
でも、あくまでもこれはレアケース。ほとんどの場合、薬の服用や神経ブロックなどの保存療法をしているうちに、ヘルニアは小さくなり、数か月で快方に向かっていく。
ちなみに、保存療法と同時並行で実践していきたいのがマッケンジー体操などの腰を後ろに反らす運動。痛みに対する恐怖や心配のしすぎでカラダを動かさないと、腰痛はいつまで経っても改善しない。医者頼みではなく自助努力もまた大事。
「それでも、なかには長期間にわたって症状が改善せず、痛みやしびれなどの神経症状が強い場合もあります。働き盛りの患者さんの中には早期の職場復帰を望まれる方もいます。こうしたときには手術が検討されます」
平尾さんが行うのは内視鏡を用いたヘルニアの摘出手術。切開部分が小さく、患者の負担が軽い術式。
「内視鏡手術後の傷口のサイズは通常、18mm。傷口が小さいため、従来の切開手術と比べると術後の痛みが軽く、回復が早いのが特徴です」
内視鏡手術の場合は術後1週間以内に退院できるケースがほとんど。
前かがみになると腰や脚が痛むという症状が長く続くようなら、椎間板ヘルニアの可能性があるかもしれません。自己判断をせずに、医師の元で適切な治療を。
『Dr.クロワッサン 歩幅65.1cmで、腰痛しらず。』(2019年3月5日発行)より。
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