からだ

国民病・腰痛の8割以上が実は病名がつかない。そこで歩幅。

  • 撮影/角戸菜摘 文/石飛カノ イラストレーション/川野郁代

背骨の構造と不良姿勢の判断基準

(A)胸椎後弯角
平均35度
50度以上が猫背

(B)腰椎前弯角
平均50〜60度
40度以下が腰曲がり
70度以上が反り腰

背骨は頸椎、胸椎、腰椎の3つのパートで構成されている。このうち、整形外科的な姿勢の判断基準は胸椎の12番と仙椎を結んだ腰椎前弯角。そして胸椎の5番と12番を結んだ胸椎後弯角。平均を上回っても下回っても不良姿勢。

では、ここで背骨の構造の確認。背骨を構成する脊柱は、上から順番に7つの頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5つの腰椎が連なって仙椎に至る。頸椎は前に向かって前弯(ぜんわん)し、胸椎は後ろに向かって後弯、腰椎は再び前方向に前弯し、S字カーブを描く。これが、ヒトの背骨のライン。

「腰痛を引き起こす要因には座りすぎなどの運動不足と並んで、不良姿勢があります。整形外科的には、胸椎の12番と仙椎を結んだ角度で腰椎の姿勢を判断します。この角度は腰椎前弯角といって、平均的には50〜60度。40度以下の場合は腰椎の前弯が不足している腰の猫背、70度以上の場合は前弯が過剰な反り腰姿勢です。また、背中の姿勢を評価するためには胸椎の5番と12番を結んだ胸椎後弯角を測定します。平均的には35度前後ですが、50度以上の場合は背中が丸まった猫背といえます」

腰椎のカーブが小さすぎても大きすぎても、腰には負担がかかるということ。こうした不良姿勢の原因のひとつは、筋肉のバランスの崩れ。

「猫背の人は腹筋などのカラダの前側の筋肉と、脊柱起立筋やハムストリングスといった姿勢を支える後ろ側の筋肉のバランスが崩れていることが多く、このバランス異常が腰痛の一因に。反り腰では腸腰筋(ちょうようきん)や大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、大腿筋膜張筋といった太もも周辺の筋肉が緊張していることが多く、やはりバランス異常が起こります。さらに腰椎の過剰な前弯があると関節に負担がかかり、腰痛が生じやすくなります」

また、筋肉の問題だけではなく、脳と神経、筋肉の情報伝達が悪くなることも姿勢が崩れる原因。赤ちゃんのときに脳神経系から筋肉へ伝えられていた伝達が、大人になると日常の生活習慣やクセに邪魔されて伝わりにくくなる。すると、インナーマッスルという細かい筋肉が働かず、効率的な動き方ができなくなり、特定の筋肉ばかりに負担がかかって姿勢が崩れることも。

歩幅は姿勢を映し出す鏡。 チョコチョコ歩きの人はご用心。

さて、ここで歩幅のお話。

歩幅こそ、こうした姿勢を映し出す鏡。猫背の人は胸椎の回旋という動作がうまくできていないことが多く、骨盤の動きも小さく、大股で歩くことが苦手。反り腰の人は体幹が安定せず、お尻の筋肉がゆるんでいるので歩幅が小さい。

「腰痛対策としては、痛いところをじんわり動かしてもいいのですが、腰椎以外の部分にアプローチした方が有効なことも多い。たとえば姿勢を見直し、股関節や胸椎、姿勢に関わる部位の筋肉をストレッチしたり、筋肉の過度な緊張をゆるめる全身運動を取り入れたり。全身運動として最もおすすめなのが、広い歩幅でのウォーキングです。私は実際、腰痛患者の方に広い歩幅で歩けるノルディック・ウォークをすすめています」

つまり、姿勢を見直す→過度に緊張している筋肉をストレッチする→歩幅を広くしてウォーキングをする→腰痛の改善・予防につなげる。こうした流れで、非特異的腰痛のトラブルを解消していくという提案。

「また、精神的な要因は腰痛に大きく影響するので、ストレス対策も必要。楽しいと感じることを行うと、脳の血流が促され、痛みを抑える物質が増えるとも言われています」

ストレッチで歩幅が広がり、颯爽(さっそう)と歩けるようになれば、外出が俄然(がぜん)楽しみになるかもしれません。

不良姿勢の改善と歩幅の拡大に関わる筋肉

(A)脊柱起立筋群
背骨に沿って走る筋肉群。深層には多裂筋というインナーマッスルがあるが、神経伝達が悪くなり機能しなくなると過度な負担がかかる。

(B)大臀筋
広い歩幅で歩くときはこの筋肉の力が絶対に必要。猫背タイプも反り腰タイプも、この筋肉が十分に機能していない。

(C)ハムストリングス
反り腰の人は大腿四頭筋が常に緊張している一方、対の関係になるハムストリングスが弱く、痛めやすい。ストレッチが腰痛対策に。

(D)腸腰筋
背骨と太ももの骨をつなぐインナーマッスル。脚を引き上げるときに働く筋肉なので、広い歩幅でのウォーキングに必須。

(E)腹筋群
腹直筋、腹斜筋、深層の腹横筋など、体幹を支える筋肉。とくに反り腰姿勢の場合、この筋肉群が弱く、ぽっこりお腹になりやすい。

(F)大腿四頭筋
股関節と膝関節を結ぶ、カラダの中でも大きなボリュームを占める筋肉。反り腰の人はこの筋肉が過剰に緊張している傾向あり。

(G)大腿筋膜張筋
太ももの外側にある筋肉で股関節の屈曲に作用する。ここの筋肉が硬くなると、骨盤が前傾してしまい、反り腰になる。

腰痛対策の4大セオリー

●安静は最小限にする
腰痛になったら安静にするという日本の常識は、世界では非常識。非特異的腰痛では、できるだけ普通の生活を行うことが重要。

●背骨の運動を取り入れる
猫背の人は腰を反らせる、反り腰の人は前屈をするといった、背骨まわりの筋肉を動かす運動を取り入れる。

●全身運動を取り入れる
腰まわりの過度な緊張をゆるめるための全身運動も腰痛対策には有効。30分程度の有酸素運動を2日に1回は取り入れたい。
 ↓
【大きな歩幅でのウォーキングは腰痛対策の全身運動に最適です!】

●ストレス対策をする
心因性腰痛は非特異的腰痛に含まれるが、単独で生じるだけでなく、非特異腰痛や特異的腰痛に関係する例も。ストレス対策は必須。

平尾雄二郎

監修

平尾雄二郎 さん (ひらお・ゆうじろう)

脊椎外科医

都立広尾病院整形外科医長。脊椎外科の専門医として日々、手術による腰痛患者の治療のほか、セミナーなどで腰痛改善法の普及に努める。

『Dr.クロワッサン 歩幅65.1cmで、腰痛しらず。』(2019年3月5日発行)より。

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