温度、湿度、気圧、この時季の気象が影響する?自律神経を徹底研究!
私たちの心と体にどんな影響を与えるのか、まずはきちんと理解したい。
イラストレーション・飯田 淳 文・石飛カノ
一直線に進むストレス反応。変調はカラダからのサイン。
いわゆる〝不定愁訴〟と呼ばれるカラダの不調のほとんどは、自律神経のバランスが崩れることによって現れる。その原因は、ずばりストレス。
「ストレスと体調不良には一定の経路があります」と言うのは、心療内科の専門家、中尾睦宏さん。
「人はみなストレスに適応しながら生きています。ストレス過多になってくるとまず元気がなくなります。次に頭痛や不眠、食欲不振などカラダに不調が出てきます。この段階で自律神経が乱れている可能性が考えられます」
自律神経には交感神経と副交感神経があり、前者は日中活動しているとき、後者は夜間の休息時に優位になる。ところがストレスで交感神経がしょっちゅう興奮することでカラダに変調が。
「怖い上司やママ友がいたとして、その人に怒られたら交感神経が昂ります。これは自然な反応。でも姿を見ただけで条件反射的に交感神経が昂って常態化してしまう。するとアドレナリンなどのアクセルに相当するホルモンがどんどん分泌されて、胃や腸など自分の弱い部分にダメージが加わります」
さらに無理をして頑張ると最終的には過呼吸やパニック発作に。不定愁訴はカラダからのサイン。今のうちに速やかな対処を。
この時季ならではの気象がストレスになることも。
雨が降る前に頭痛がする、膝が痛むなど、夏直前、梅雨の時季ならではの気象によって不調が現れることもある。「気象病」または「天気痛」と呼ばれる症状がそれ。日本初の天気痛外来を開設した佐藤純さんによれば、
「梅雨前線が停滞して気圧が不規則に動きます。この気圧の変化が気象病のリスクであることは間違いありません。また、高い湿度も関節の痛みなどに影響を及ぼすと考えられます」
気圧の変化などがひとつのストレスとなり、交感神経が興奮して慢性的な痛みが現れる。これが気象病で痛みが生じるメカニズム。
「逆に副交感神経が優位になり、人によってはだるい、眠い、気分が落ち込むということも起きます。交感神経や副交感神経が本来優位ではないタイミングで興奮することで、さまざまな症状が出現するのです」
大雨や台風、寒暖差など、ここ数年の異常気象によって、これまで天気による不調を感じなかった人に天気痛が襲ってくる可能性もあるという。
「とくに全身性の自律神経の不調が出てくる更年期の人は要注意です。カラダが弱っているところに異常気象という大きなストレスがかかることで、不調が現れやすくなるかもしれません」
一日3回食事を摂り、7時間床につく習慣をつける。
自律神経のバランスが崩れると、まっさきに乱れるのが生活の基本となる食事と睡眠。逆にこの2つさえきちんと実践できていればなんとかなる、と中尾さん。
「食事に関しては不振と過剰、どちらもありますが、大抵は不振になりがち。ですから一日3食、少量でもいいから食べるようにすることが大事。栄養バランスをとることは二の次、絶対量が足りていないことが一番問題です。
メンタルヘルス的には気分を安定させるセロトニンというホルモンの材料になる食品を食べることがおすすめです。バナナ、味噌汁、豆腐などはセロトニン含有食といわれています。食欲が落ちているときには肉などは食べられないでしょうから、こうした食品を積極的に摂りましょう」
また、自律神経が乱れると7〜8割の確率で陥るのが不眠。ただし不眠を恐れ、寝られなかったらどうしようという不安や緊張が高まると、逆効果。
「患者さんによく言っているのは、最低でも7時間は床につく時間を確保して目だけつぶりなさいということ。朝まで時計の音が聞こえていてもいいからとにかく目をつぶる。起きてテレビを見ているよりよほど脳が休まります。2〜3日そうしていると、どこかで疲れてぐっすり眠れる時間が訪れます」
まずは生活の土台となる食事と睡眠を立て直すことからスタートを。
運動、読書、深呼吸……2つ以上のリラックス法を準備。
ストレスに対して過剰適応した挙げ句、カラダに不調が現れることを防ぐには、自分なりのリラクゼーションの方法を準備しておくことが重要。中尾さんは、ひとつではなく2つ以上の技を用意しておくことをすすめている。
「ひとつだとそれがダメだったときにパニックになってしまいます。これがダメなら次の手がある、と思えることが大事です。私のリラックス法のひとつは歩くこと。毎日1万4000歩、歩くことを目標にしています。もうひとつのリラックス法は読書です」
この時季、雨が降ったら外に出て長時間歩くのは難しい。そんなときは家の中でできる読書で心身をリラックスさせるというわけ。
「SNSの動画でダンスをするなど家でできる運動を取り入れてもいいと思います。深呼吸などもいいですよ。ゆったりと大きな呼吸をするだけでリラックスできます。おすすめは10秒に1回、1分間に6回呼吸するという方法。6秒で口から息を吐き切って、1秒間肛門に力を入れて息を止め、3秒で一気に息を吸う。息を吐くときに副交感神経が刺激されるので、最初に息を吐き切ることがポイントです」
イライラしたりパニックになっているときに自分がどういう呼吸をしているか、気づくだけでも有効だそう。心とカラダを自分なりにコントロールする術を身につければ無敵。
3段階のステップで気象病による不調に対処を。
この時季に陥りがちな気象病には3つの手順を踏んで対処することが基本、と佐藤さん。
「まず、1つめは自分の不調が天気や季節の影響を受けているかどうかを把握することです。〝痛み日記〟をつけて体調変化を〝見える化〟する。天気は自分でコントロールできないからと諦めるのではなく、こういうタイミングなら仕事や遊びに行ける、と考えられるようになります」
天気、気圧、気温、湿度、その日あった出来事、痛みの強弱などを1カ月程度日記につけていくと、症状が出るタイミングがわかってくるという。
「2つめは頭痛に伴うめまいに対処する抗めまい薬や漢方薬などを取り入れること。天気痛耳栓を使って気圧の変化をブロックすることも有効です」
気象病の改善に効果が期待できる漢方薬は、神経の興奮を抑える「抑肝散」や水分の巡りを促す「五苓散」など。漢方薬局で症状を相談しながら取り入れたい。
「こうした薬を活用し天気が崩れても対処できるようになると、少しやる気が出てきます。そこで3つめは頭痛や痛みの根本治療に向かいます。頭痛外来、過敏性腸症候群、貧血、心臓病など専門の医師のもとで治療を受ける。もともとの病気がなくなれば天気の影響を受けなくなります」
この3ステップで梅雨対策は万全。
梅雨の時季こそたくさん汗をかくことも、気象病対策に。
「整った!」というのがサウナ愛好者、いわゆるサウナーの合言葉。何が整ったかというと自律神経のバランスが整ったという意味だとか。これもひとつの気象病対策になる、と佐藤さん。
「自律神経は呼吸や心拍、胃腸等の内臓機能など、身体活動を司っていますが、そのうちのひとつに体温の調節という大事な働きがあります。寒いときには代謝を促して熱を発生させ、暑いときには汗腺を刺激して汗をかいて熱を逃がします。自律神経のバランスが乱れると、こうした体温調節がしにくくなります」
サウナは高温の環境にしばらく身を置いて体温を上げ、その後、冷たい水に浸かったり空冷によって体温を下げる。まさに自律神経の鍛錬そのもの。
「これは運動しているときの状況と同じです。運動中には血管を広げて汗をかいて熱を逃がし、運動後には血管が縮んで体温を維持します。これを繰り返すことで暑い夏の季節にカラダが順応していきます。運動嫌いな人はサウナで汗をかいておくという手も大いにあると思います」
暑さに対応できないとカラダに余分な水分が溜まってむくみの症状が出てしまう。梅雨時に汗をかけずにカラダがむくむと、ぼーっとのぼせてしまうことも。これもまた気象病のひとつ。梅雨の時季には、運動またはサウナで汗をかく練習をしておきたい。
『クロワッサン』1047号より