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糖質制限食にパナソニックがチャレンジ!プロジェクトに込められた思いとは?

近い将来、糖質制限をする人のための救世主がパナソニックから生まれるかもしれない――。そう聞いたら、何か新しい家電が登場するのかと思う人は多いはず。しかし、そうではありません。現在、開発を進めているのは「よりそいごはん」と名づけられた低糖質で高タンパク質の“新しい主食”。なぜ家電メーカーが糖質制限食にチャレンジしているのでしょうか。その開発に込められた思いを、プロジェクト考案者の川端久美子さんとメニュー開発に協力した料理研究家の藤本なおよさんの対談を中心にお届けします。

目指すは“新しい主食”を軸にした健康的な食習慣。

プロジェクトを担うパナソニックの川端久美子(かわばた・くみこ)さん(右)と料理研究家の藤本なおよ(ふじもと・なおよ)さん(左)。

昨今、糖尿病予防やダイエットとして注目されている糖質制限食。ご飯やパンの代替え食品も数多く市販されていますが、「よりそいごはん」が目指すのは、お米のようにもっちりとしていて、食べ応えもある“新しい主食”。「よりそいごはん」を軸に、アプリでメニュー提案や健康管理も行うこのプロジェクトが誕生したのは、パナソニックの新規事業を創出するプラットフォーム「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト。以下、GCカタパルト)」に2020年5月、川端久美子さんが応募したことに始まります。

GCカタパルトは、新しい生活文化の提案や社会問題の解決を目指して創設されたパナソニック社内でのビジネスコンテスト。これまで家庭で作る食事を嚥下しやすいように味や形を保ったままやわらかくする「Delisofter(デリソフター)」などユニークな製品やサービスを世に送り出してきました。

藤本なおよさんが提案した献立の一例。サイコロステーキをのせたガーリックバターライスに、サラダとスープを添えて。不足しがちなタンパク質も脂質もしっかり摂って、これでメニュー全体の糖質量は7.4g。

川端さんは医薬品の基礎研究を経て2014年、パナソニックの先端研究所に入社。2018年に家電、美容、健康分野など暮らしにまつわる幅広い分野の製品、サービスを開発するパナソニックの社内カンパニー、アプライアンス社に異動になりました。研究職から一般向けの事業を行う職場に移り、何か自分でも社会に貢献できるような家電やサービスを開発したい。そう考えているところに浮かんだのが、糖尿予備軍と診断された父親のために糖質制限食を作る母親の姿でした。

「5年ほど前に父が糖尿予備軍と診断されたのを機に、川端家では炊飯器を捨て、両親と姉、私の一家4人で糖質制限食に取り組むようになりました。なかでも父親だけはご飯の代わりにおからを食べるようにしていて、毎食、母親がおからを調理してお茶碗によそって出していたんです。それで『毎回、おからを料理するのは面倒くさくないの?』と聞いたところ、すごい剣幕で『面倒くさいに決まってるやんか』と即答されました」

同じように家族の健康を心配して、糖質制限食を作っている人は少なくないはず。ならば、ご飯の代わりに別のものを作ることを、自分の母親と同様に負担に感じている人は多いのではないか。そう考えた川端さんは、糖質制限食を作っている人の「大変だな」という気持ちに寄り添う製品やサービスを作りたいと思うようになりました。そこで発想したのが、簡単に調理できておいしい、ご飯に代わる“新しい主食”でした。

「糖質制限食のつらいイメージを、おいしいとか楽しいとか、みんながやりたいものへと変えていくにはまず選択肢が多くないといけないと思ったんです。そこで“新しい主食”を起点に、無理なく続けられる健康的な食習慣の仕組みを提案できたらと考えました」

ワンパターン化しがちな糖質制限食をバラエティ豊かに。

研究所に所属していたときの先輩の男性2人に協力を仰ぎ、GCカタパルトに応募。無事採用となり、開発を進めました。そして第一弾の試作品が完成した2020年10月。翌11月、「よりそいごはん」を使ったメニューを提案するため、ローカーボ(低糖質)の食事について日頃から「You Tube」などを通じて発信している藤本なおよさんにメニュー開発の依頼をしました。

川端 “新しい主食”だけを提供しても、楽しみ方がわからなければ、糖質制限食のハードルを下げたり、みなさんに使いやすいと思ってもらったりすることはできないんじゃないか。そんな意見がメンバー内の議論で出ていたので、プロジェクトを進めるにあたり、おいしく簡単に調理できるメニュー提案は欠かせないと思っていました。そこで第一弾の試作品ができた段階で、藤本なおよさんにお声をかけさせていただきました。

藤本 パナソニックさんは、私の中では家電機器のメーカーさんというイメージ。ですから最初にご連絡をいただいて、糖質制限食に注目されているというお話を伺ったときは、驚きとともに大変嬉しい気持ちになりました。

川端 社内でも「食をうちの会社でやるのか」というご意見も多かったんです。ただ、社会的に糖尿病の患者が増えているという課題に対しては、健康測定機器などを開発している弊社としても注目していたので、その観点から「よりそいごはん」に非常に興味を持ってもらったという流れがあります。

藤本 川端さんの「できるだけおいしい主食を作りたい」という熱意が伝わったんだと思います。川端さんのお父様が糖尿病予備群だというお話も伺いましたが、私自身、糖質制限食で体調が改善されたという経験がありまして。なるべく多くの人にそのメリットを知ってもらいたいと思って発信していたので、お声をかけてもらってとても嬉しかったです。

藤本なおよさんは、「ローカーボ(糖質制限)」食で体質改善をしたことを機に、ローカーボに特化した料理研究家に。企業や飲食店のレシピ開発、食や健康に関するセミナー講師や執筆活動などで活躍。2019年よりYou Tubeチャンネル「なおよキッチン」にて動画での糖質オフレシピの配信もスタート。

川端 私自身も糖質制限をしているとお話しましたが、じつは以前から藤本さんのYou Tubeを拝見して、料理の作り方を学んでいたんです。糖質制限食の課題の1つに、メニューがワンパターン化してしまうという問題があって。これはお客様にヒアリングしたときにも感じましたが、料理のバリエーションをどう広げていったらいいのか、味付けをいかに変えるかといったところで悩むことが多いんです。そこで藤本さんのYouTubeを参考にしながらバリエーションを増やすことをほそぼそとやっていました。

藤本 そうなんですか! それは初めて聞きました。実際にいろいろ作ってくださっていたんですね。

川端 はい、最近だとおせち料理の動画を参考に、今年のお正月は糖質オフのおせち料理に挑戦しました。おせち料理には、糖質が高くて諦めなければいけないメニューが結構ありますよね。

藤本 栗きんとんをはじめ、お砂糖で煮る料理が多いですよね。お砂糖を血糖値が上がりにくい甘味料で代替えしたり、みりんをなるべく使わずにお酒を使ったり。あと現代人は、タンパク質が不足しがちなのでローストビーフや海老を入れて、タンパク質をプラスするように構成しました。

川端 栗きんとんは久しく食べていなかった父が「おいしい、おいしい」と非常に喜んでいました。なので今年は、とてもよいお正月だったなと思います。

藤本 そうおっしゃっていただけるとやりがいがあります。糖質制限食は味や満足感だけでなく、費用や手間などいろんな意味でハードルが高いというイメージが強いので、いかにおいしくて、簡単でコスパもよく続けやすいかというのを意識して発信していたので、そこにちゃんと注目していただいたというのがありがたいです。

藤本さんが提案した20食から、「よりそいごはん」の価値がより引き立つ献立14食を選定。カレーや親子丼、チャーハンといったご飯がメインのメニューが並ぶ。

味だけじゃない、噛み応えと満足感を目指す「よりそいごはん」。

社内の起業家育成プログラム「BootCamp」を受講しているところ。

藤本 食品メーカーでないパナソニックさんが食品を開発するにあたって、ご苦労がかなりあったのではと思いますが。

川端 おっしゃるように弊社も私自身も食品をどう開発するかという前提の知識がほぼゼロの状態で。材料を何にするかというところから非常に苦労しました。調理した状態で100グラムぐらい食べるとして、その糖質量が5g以下になれば、おかずのバリエーションが広がると思っていたので、その値を目指しました。そしてたどり着いたのが、大豆や卵というタンパク質が多い食材を中心に小麦などを配合したものです。

藤本 大豆って臭みが結構残るんですが、第一弾の試作品を食べたときに臭みが全然なかったんです。これがもっとお米の食感に近づいたらおいしくなるだろうなと感じました。

川端 今の第二弾の試作品はもう少しお米の粒に近づきましたが、最初はパスタを刻んで丸めたような感じでしたよね。手作業で丸めて米粒の形を作っていました。

藤本 涙ぐましい努力ですね。私は7年ぐらい前から糖質制限を始めて、代替品もいろいろ食べてきました。初期の頃の大豆パンとか、あまりおいしくなかったんです。健康的なものイコール味気ない、おいしくなさそうというイメージはまだまだ強いですよね。

川端 はい、おいしくないというイメージを払拭しないとお客様に受け入れてもらえないだろうとは思っていました。そこでお客様の声を聞いていて気づいたことが、味はもちろんですが、噛み応えとお腹にたまるという満足度の重要性です。こんにゃくでできている代替品がなぜ満足感に欠けるのかを聞いているうちに、食感と食べごたえが味とともに大事だということに気づきました。こんにゃくだとすぐにお腹が減っちゃう、ご飯に比べてツルツルしていて噛みにくいといった意見が多かったんです。「よりそいごはん」の理想は、ほぼ米に近いしっとり感。糖質が少ないと、どうしてもパサパサ感が出てきてしまうんです。そこはまだまだ改善の余地があると思っています。

藤本 すぐに食べれば、パサパサ感は気にならなかったです。第二弾の試作品では、見た目も粒感があって、ずっとお米っぽくなりましたよね。しかも、「よりそいごはん」と同量のお水をレンジで加熱するだけであっという間に食べられるという手軽さがすばらしいと思います。

川端 ありがとうございます。糖質制限食を作る母の大変さを横で見ていたので、料理する人の負担を減らしたいという思いは最初からありました。だから、レンジ調理だけでできることにこだわったんです。

コロナ禍で思うように行き来ができない中、オンラインを駆使してプロジェクトを進行。この日の対談もオンラインで。

藤本 食品メーカーさんだと、いかに糖質をオフした食品を作るかに特化しがちなところ、このプロジェクトは副菜も含めてトータルで食生活を考えているところがポイントですよね。糖質制限食というと、ご飯を食べない、砂糖を控えるなど減らす方向にばかり意識がいきますが、筋肉を作る動物性のタンパク質や食物繊維が豊富な野菜もしっかり摂ることが大事。血糖値を急上昇させずに、しっかり栄養価のある食事を摂ることが大切だと思っています。

川端 それに食事を楽しむとなると、食品単体だけでは成り立たないとずっと思っていましたから。逆に藤本さんには、完成品がないところから「よりそいごはん」に合うレシピを考案していただいて、とてもご苦労をかけたのではないかと思っています。

藤本 みなさんが糖質制限で、食べたいけれど我慢しているご飯もののメニューができたらいいんじゃないかなと思ってメニューを考案しました。カレーや丼など具材と一緒に食べたほうが、よりおいしく味わえるということもありますし。

川端 そうですね。今までごはんがメインになっているために諦めていたメニューを食べられるのが、「よりそいごはん」の一番の価値なのかなと思っていたので、まさにそういうメニューをご提案いただいて。実際にカレーを作って両親に食べてもらったんですが、「カレーが食べられる」と喜んでくれて「おいしい」と何回も言ってもらって、ちょっと泣きそうになりました。

藤本 そう聞くと作ってよかったなと強く思いますね。今後は、雑炊やお粥などのアレンジ料理もできるようになるといいなと思います。

川端 はい、あまり料理が得意なチームではないので、メニューのアイデアをどんどんご教示ください! そうしてお客様にとって食事の楽しみが増えるように「よりそいごはん」を育てていきたいと思います。

専用アプリでは購入、レシピ提案に加え、日々の食事、体重、血糖値などを記録でき、手軽に健康管理ができるように。

ご飯に代わる“新しい主食”を目指す、低糖質で高タンパク質の「よりそいごはん」。第二弾の試作品を編集部で試食したところ、お米に近いつぶつぶした食感と「主食を食べた」という満足感がありました。お米に比べてややぽそっとしているものの、カレーなどの汁気がある料理との相性はバッチリ。しかもご飯100gに含まれる糖質量35.6gに対し、「よりそいごはん」は5g以下と約1/7。レンジで簡単に調理でき、お米を炊く手間も要らないとあって、十分お米の代替品になる可能性を感じました。

今後、「よりそいごはん」が提案するのは“新しい主食”を取り入れた健康的な食生活。楽しみながら続けられるサポートとして、専用アプリを使って「よりそいごはん」を簡単に購入でき、手軽にできる日々の献立も提案。さらに、体重や血糖値などのバイタルデータとも連携してトータルに健康管理ができるシステムを構築していく予定です。糖質制限食にトライして挫折した人にも、これから始めようかなという人にも、乞うご期待のサービスです。

藤本が提案し、川端さんの両親が喜んで食べたという豚バラカレー。小麦粉を使わず、トマト缶とカレー粉を使って糖質をオフ。メニュー全体の糖質量は20.8g。
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