呼吸器疾患が専門の医師・大谷義夫さんの、のどの老化を防ぐ「音読健康法」。
文・宮田文郎 イラストレーション・山下カヨコ 撮影・岩本慶三
音読健康法
飲み込む力や呼吸筋を鍛えるのでのどの老化や誤嚥性肺炎を防げます。
大谷義夫さんのタイムスケジュール
【8:00】起床、朝食(スムージーorヨーグルト)
【9:30】診療
【14:00】検査データ確認や患者への連絡などこの間に10分で昼食(サンドイッチ)
【14:45】仮眠
【15:00】診療
【18:00】ココアを1杯
【20:30】診療終了
【20:30】運動(ジョギング、水泳など)
【21:00】カルテ整理など。終了後に音読
【22:00】夕食
【2:00】就寝
ドクター大谷健康法(1)1日3分、40代からの音読でのどを鍛えれば認知症予防にも。
呼吸器疾患のエキスパートである大谷義夫さんは、1日3分の音読を自ら実践するとともに広くすすめています。のどの老化やその先に待つ病気を予防するためです。
「のどには発声、嚥下(えんげ)(飲み込むこと)、呼吸、異物の関門の役割があります。筋力低下や唾液の減少、動脈硬化といった原因でこれらの役割に支障が出ると、誤嚥性肺炎につながります。飲み込んだものをうまく食道へ送ることができなければ、唾液や食物が気管に入りやすくなります。咳き込んで異物を外に出す咳反射もできないと、そのまま肺へ流入。免疫が低下していると肺炎を発症する可能性が高くなるのです」
誤嚥性肺炎は、日本人の死因で上位に入る病気。
「ひとたびかかると、繰り返し発症して寝たきりになるなどの悪循環が待っています。誤嚥性肺炎で入院した場合、認知症のリスクも高まります」
下の表で、のどの老化を招く生活習慣や自覚症状をまとめているのでチェックしてみましょう。誤嚥性肺炎に罹患するのは高齢者がほとんど。しかし、のどをはじめ全身の筋力は40歳を境に低下していきます。40代、50代からの予防が大切です。
そこで今日から始めたいのが、1日3分の音読。声を出すことでのどを若々しく保ち、誤嚥性肺炎や認知症のリスクを減らします。
「音読をすることによって、誤嚥性肺炎を予防するさまざまな機能が鍛えられます。声を出すには、声帯を震わせるために呼吸筋の働きで肺から空気を出す必要があります。大きな声で読めば声帯に加え呼吸筋も鍛えられ、咳反射もよくなります。
発声と嚥下で使う筋肉はほぼ同じで、ものを飲み込む際に必要なのどぼとけ周りの筋肉も強化されます。はっきり滑舌よく話せば、舌の筋肉や表情筋の筋力アップにも効果があり、顔のたるみケアにもなりますよ」
誤嚥性肺炎予防で健康寿命を延ばし、声や肺の若々しさも取り戻す音読。朝昼晩に各1分ずつでも、一気に3分でも大丈夫です。
【のどを老けさせる生活習慣・自覚症状をチェック!】
□ タバコを吸う
□ 脂っこいものが好き
□ アルコールを毎日たくさん飲む
□ いびきや無呼吸がある
□ 野菜が好きではない
□ 血圧が高い
□ 胸やけがある(胃酸の逆流)
□ のどに違和感がある
□ 声がかすれる
□ 会話する頻度が少ない
ドクター大谷健康法(2)音読は新聞でも週刊誌でも 小説でも何でもよし。
音読したいけど、何を読めばいいのか……そう迷う人もいるかもしれませんが、何でもよいとのこと。
お気に入りの本をパッと開いたところでもいいし、新作小説を少しずつ読み進めるのもいい。大谷さんの著書では『坊っちゃん』や『枕草子』といったなじみある作品もすすめています。
慣れてくれば、気分転換も重要。モノマネでいつもと違う声色に挑戦したり、童心に帰って子どもの声で懐かしいお話を読んでみたり。「楽しいほうが続けやすいですからね。筋トレでもあるので、3日で終わらないことが大事です」
ドクター大谷健康法(3)背筋を伸ばして読めば立っても座ってもOK。
発声に深く関わる姿勢には注意が必要です。小学生の頃を思い出して、背筋をぴんと伸ばすとよいそうです。
「立って読む場合も座って読む場合も姿勢を正すことが重要。胸を張って読むことで、肺活量が増えてしっかり息を吐けます。気分はステージに立ったつもりで」
正しい姿勢なら腹式呼吸と、大きな声を発することもしやすくなり、呼吸筋や体幹が鍛えられます。猫背だと吐く力がおのずと弱くなるので要注意。また、椅子にもたれたり、寝転がって読んだりも、効果が半減します。
ドクター大谷健康法(4)上手に読む代わりに口を大きく開きはっきりと。
音読の効果を高めるため、姿勢以外にも意識するといい点があります。
「うまく読めず、ところどころつかえてしまっても、問題はありません。その代わり、口を大きく動かしてください」。
頬などの表情筋が鍛えられることで、唾液が分泌されやすくなり、嚥下する力が高まると言います。
また、「高い音や低い音が混じったいろいろな声を出すと、音質に幅が出ていいですよ」とも。女性は、加齢とともに女性ホルモンの影響で声が低くなってしまうため、若々しい声を心がけて音読するのも大切です。
ドクター大谷健康法(5)カラオケやお喋りも効果あり、日頃声を出す機会を増やそう。
声を出す機会は多いほうがよく、カラオケやお風呂での鼻歌も効果を望めます。他者とのコミュニケーションはさらに理想的で
「食事会や電話で誰かと話すのもいいですよ。会話で脳が刺激され、誤嚥性肺炎だけでなく認知症の対策にもなります」。
大谷さんがあるテレビ番組のロケで団地を訪れた際、コミュニティを作って一日中しゃべっているような人は高齢でも元気だったと言います。何事もメールで済ませずにたまには電話したり、ご近所さんと大きな声で挨拶したり、積極的に声を出す心がけを。
『Dr.クロワッサン あなたも、すぐできる! 名医の健康法』(2019年9月28日発行)より。