気象病には対処法があります。
イラストレーション・木下綾乃 文・石飛カノ
精度の高い予測を味方につける
めまいの薬や頭痛薬は症状が出る前に服用するのが最も効果的。でも、未来の気圧変化を人の感覚で事前に捉えるのは困難。そこで活用したいのが3月から情報提供をスタートした「天気痛予報アプリ」。佐藤さんと気象サイトを運営するウェザーニューズ社が共同開発した画期的なコンテンツだ。
予報の根拠となるデータは天気図に表れる気象現象による気圧変化、一日2回の周期で繰り返される大気潮汐(ちょうせき)、発生サイクルの決まっていない小さな微気圧変動の3つ。これらをウェザーニュースのユーザーのべ15万8000人のアンケート調査と合わせて検証、約2年の歳月をかけて天気痛予報ロジックを作り上げた。
天気痛発症のリスクを「安心」「やや注意」「注意」「警戒」の4段階で表示。6日先までの予報がチェックできるので、症状が出る前の心構えや薬の服用タイミングなどに大いに役立ちそうだ。
【微気圧変動】
通常の天気図の気圧単位はヘクトパスカル。微気圧変動は、その1000分の1以下の気圧変動のこと。低気圧が遠くにある段階から天気痛の症状を感じるユーザーがいたことから、このデータに注目。実際、気圧が下がる前に自覚症状を感じ、2日後に雨が降ることが分かるという人もいるという。微気圧変動には発生時間の周期性はなく、低気圧が接近するかなり前から1日に複数回現れるという。このデータが加わったことで予報精度がよりアップ。
【気圧の変化】
アプリを開発する上で、まず最初に天気痛との関係性を調べたのがこのデータ。低気圧や台風が近づいたり、高気圧が離れていくときに気圧が下がる。このタイミングと天気痛との因果関係を検証した。
気圧のスケールは約1000ヘクトパスカルを中心に、数日単位で20ヘクトパスカル程度上下することが多いという。発達した低気圧では1日で24ヘクトパスカル下がることもある。このベーシックな気圧変動がスタート地点。
【大気潮汐の変化】
日差しのある昼は大気が温められて膨張し、夜になると冷やされて収縮する。というように海の潮の満ち引きと同様に、大気もまた、満ち引きしている。これが大気潮汐と呼ばれる現象。午前3時と午後3時には気圧が下がり、午前9時と午後9時に気圧が上がる。1日2回、6時間ごとに上昇・下降を繰り返す気圧変動は5ヘクトパスカル未満と小さいが、通常より大きな変動時に天気痛のリスクが高まるという。
[大気潮汐と天気痛のリスク]
天気図の気圧変動の1000分の1レベルの変動幅。季節の変化や太陽で地面が温められて気温が急上昇したときなどに、通常より大きな変動が見られ、天気痛のリスクが増大。
佐藤 純(さとう・じゅん)さん●医師。名古屋大学教授を経て、2007年に愛知医科大学病院・痛みセンターにて気象病外来・天気痛外来を開設。2018年より中部大学生命健康科学部教授に就任。『天気痛 つらい痛み・不安の原因と治療方法』(光文社新書)など天気痛に関する著書多数。
『クロワッサン』1022号より