動脈硬化の治療をすることになりそうです。HRTは中止すべきですか。【87歳の現役婦人科医師 Dr.野末の女性ホルモン講座】
撮影・岩本慶三 イラストレーション・小迎裕美子 構成・越川典子
Q. 動脈硬化の治療をすることになりそうです。HRTは中止すべきですか。
51歳で閉経して、そのタイミングでHRT(ホルモン補充療法)を始め、4年になります。食べ歩きが好きで、体脂肪率は30%と、ずっと高めです。じりじりとコレステロール値が上がってきていたのですが、昨年の健康診断で脂質異常症の診断が。動脈硬化の恐れがあるので、内科で治療するように指導がありました。もしかしたらHRTはやめなければいけないのでしょうか。(I・Rさん 55歳 会社員)
A. HRTをやめる必要はありません。他科と連携して治療しましょう。
I・Rさん、脂質異常症と診断されて、驚かれたのですね。HRTを続けてもいいのか迷っていらっしゃるようですが、やめる必要はまったくありません。
閉経前後から、女性のコレステロール値が高くなることはよく知られています。HRTはLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)を低下させることがわかっていますが、I・Rさんのように基準値を超えてしまうと、脂質異常症と診断されます。このまま放置しておくと、動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが上がってしまいます。
I・Rさんは、今回の健診結果をもって、かかりつけの婦人科医にご相談ください。できれば、循環器内科を紹介してもらい、治療が必要であれば始められるとよいでしょう。一般的に、LDLコレステロール値が180mg/dLを超えると薬物治療を始めることが多いようです。
脂質異常症の診断基準(空腹時採血)
●LDLコレステロール
【140mg/dL以上】高LDLコレステロール血症
【120〜139mg/dL】境界域高LDLコレステロール血症
●HDLコレステロール
【40mg/dL未満】低HDLコレステロール血症
●トリグリセライド
【150mg/dL以上】高トリグリセライド血症
●non-HDLコレステロール
【170mg/dL以上】高non-HDLコレステロール血症
【150〜169mg/dL】境界域高non-HDLコレステロール血症
総コレステロール値よりも、LDL値が高い、HDL値が低い、高トリグリセライド(中性脂肪)で判断される。
出典:日本動脈硬化学会編「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」
私の場合、循環器内科、脳外科、整形外科と常に連携をとっており、HRTを始める前に患者さんのリスクの有無をチェックするようにしています。患者さんに治療が必要になった際も、連携をとりながら婦人科の治療をすすめていますが、ほとんどの場合、HRTを中止する必要はありません。
医師によっては、動脈硬化のリスクを考慮して、経口剤よりも血栓のリスクが少ない貼付剤(貼るタイプ)やジェル剤(塗るタイプ)をすすめる婦人科医もいますが、基本、私は患者さんご本人が使いやすい剤形を選んでよいと思っています。もちろん、貼付剤やジェル剤を試すのもいいですね。その上で、使用感の好みで選ぶこともできます。貼ると肌がかぶれる人もいますし、毎日飲む錠剤は忘れるという人もいますし、塗るタイプは冬冷たいのでイヤだという人も。貼るタイプの中には、エストロゲンと黄体ホルモンとの合剤もあります。いずれにせよ、医師とのコミュニケーションが大事です。
さて、I・Rさん。この健康診断の結果を機に、治療だけに頼らず、運動や食事など生活習慣も見直してくださいね。
※症状や治療法には個人差があります。必ず専門医にご相談ください。
健康診断の結果で右往左往しない。冷静に対応すべし。(Dr.野末)
野末悦子(のずえ・えつこ)●産婦人科医師、久地診療所婦人科医。横浜市立大学医学部卒業。川崎協同病院副院長、コスモス女性クリニック院長、介護老人保健施設「樹の丘」施設長などをへて現職。
『クロワッサン』1017号より
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