更年期、真っ最中です。これからの人生、楽しめる気がしないのです。【87歳の現役婦人科医師 Dr.野末の女性ホルモン講座】
イラストレーション・小迎裕美子 撮影・岩本慶三 構成・越川典子
Q. 更年期、真っ最中です。これからの人生、楽しめる気がしないのです。
87歳で現役の医師でいらっしゃる野末先生に伺います。テレビや雑誌では、人生100年時代に輝く生き方、なんて言葉がしきりに取り上げられていますが、今50歳になって、まだ人生半分だなんて、私は正直、とまどっています。独身で夫も子どももなく、両親も早くに亡くしています。いつまで仕事ができるかも自信がなく、そんなに楽しい半生が待っているとは思えないのです。(N・Oさん 50歳 会社員)
A. 大丈夫。ゆっくりと自分が快適になる環境を整えましょう。
少しばかりシニカルなものの見方をなさるN・Oさん。更年期に入ってからネガティブにものを考えるように変わったのだとしたら、エストロゲン減少の影響もあるかもしれませんね。女性ホルモン補充療法(HRT)については、この連載でお伝えしているので、今回ここで詳しい説明はいたしませんが、更年期特有のうつうつした気分、落ち込みが気になるようでしたら、試す価値はあります。
野末流・人生10カ条
1.いい友だちを持つ
2.家族関係の改善
3.あるがままの自分でいる
4.カラダを動かす
5.生きがいを持つ
6.おしゃれをする
7.健康診断を受ける
8.きちんと睡眠をとる
9.食事に気をつける
10.好奇心を持ち続ける
すべてを完璧にしようと思わないこと。おしゃれから始めてもいいでしょう。何か心にひびくものがあれば、試してみてください。(野末)
ただ、HRTを始めたとしても、何もかも解決できるとは思わないでくださいね。治療の目的は、もともと女性が持っている女性ホルモンを少量補充して、エイジングのスピードを遅らせ、QOL(人生の質)を維持することなのです。
N・Oさんがおっしゃる「楽しい半生」は、HRTで叶えられるわけでなく、他人が与えてくれるものでもない。ご自分で求めなければ、手に入れることはできないと思います。ちょっと厳しい言い方をしてしまったでしょうか。ごめんなさいね。
お便りを読みながら思い出すのは、私が人生の師と仰いだ櫛田(くしだ)ふきさんのこと。櫛田さんは、日本の女性運動を支えた重鎮です。お話が好きで、いくつになっても活動的で。80代でいらしたでしょうか、静岡から東京駅に戻った足で、そのまま私と合流して北海道旅行に出かけたときには、そのパワーに驚いたものです。職業や年齢、性別にとらわれず、分け隔てなく人と接し、いつも好奇心いっぱい。考えも気持ちも、柔軟でいらした。102歳で亡くなられましたが、櫛田さんを思い出すたび、楽しい気持ちになります。N・Oさんも、「あんなふうに生きたい」と思える、よいモデルを見つけてほしいと心から思います。
そして、生きるための手立ても自分なりに考えてほしい。私もN・Oさんと同じように、更年期を過ぎ、いつの間にか老年期を迎え、その時時でさまざまな工夫を重ねてきました。医療もそのひとつですが、食事や運動、人間関係も、年代によって見直しが必要になります。
私なりに、10カ条をまとめてみました。明るい色のスカーフを身につけるだけでも、気持ちが変わりますよ。どうかN・Oさんの心に届くことを祈りつつ。
※症状や治療法には個人差があります。必ず専門医にご相談ください。
すべて医療で解決はできません。自助努力も必要。(Dr.野末)
野末悦子(のずえ・えつこ)●産婦人科医師、久地診療所婦人科医。横浜市立大学医学部卒業。川崎協同病院副院長、コスモス女性クリニック院長、介護老人保健施設「樹の丘」施設長などをへて現職。
『クロワッサン』1013号より
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