ひと目見たら忘れられない「白いオオカミ」(愛称・オオカミちゃん)。アートシーンで、またコレクターの間で、いま大きな注目を集めている。作っているのは黒田有里さんだ。
「ぬいぐるみというと愛玩の対象というイメージですが、オオカミちゃんにはもっと独立した強い『何か』がある気がします。昨秋、ロンドンやダブリンをオオカミちゃんと旅したのですが、どこにいてもオオカミちゃんが “主役” 。まるで彼が一人で旅をしていたかのようでした」
飛行場で。カフェで。駅で。大聖堂で。図書館で。オオカミちゃんのいるところ、年齢、性別、国籍を超えて人々が集まり、笑顔で話しかけてくる。
「オオカミちゃんの存在感はすごい。私は、単なる付き添い人(笑)でした」
いつか近い将来、そんなオオカミちゃんたちが3000体いる景色を見てみたい──それが黒田さんの願いであり、目標だという。
「その空間を見てみたい。その空間の中に一緒に存在してみたいんです」
しかし制作は決して楽ではない。目や舌はすべて手作り。アンティークの生地やボタンをふんだんに使う衣装は一体ずつ異なる。一針一針、作り上げていく。
「個展会場を訪れた人が、そこで真っ白なオオカミちゃんに出合った瞬間から、互いの関係性が始まる気がします。だからこそ作るとき私は『自分をのせない』。毎日ヨガに通い、食事や睡眠をとり、肌を整え、機嫌よく暮らす。何より作る喜びを純粋に感じたい。そのためには自分を健やかに保つことが必要なんです」