めまい、不眠、イライラ、ほてり編。更年期症状の傾向と対策。
撮影・土佐麻理子(横森さん)、青木和義(山崎さん) イラストレーション・小迎裕美子 文・南雲つぐみ
多くの人が遭遇しやすい代表的な更年期症状について、その傾向と対策とは?
【めまい】
“ぐるぐる”より“ふわふわ”、めまいの感じ方にも特徴が。
めまいは、ほてり(ホットフラッシュ)や動悸と並んで、よく起こる更年期症状のひとつ。「メニエール病」や「良性頭位回転性めまい」の場合はよく“ぐるぐるする”と表現されるが、
「更年期外来では、ふわふわするめまいの訴えを聞くことが多いですね」
と、小川さん。
たとえば、スーパーのレジに並んでいて、急にふわっとするめまいに襲われ、“このまま倒れそう”“まっすぐ歩けない”と不安になって受診したなどのように、不安感が重なって起きていることも多いのだという。
「そんな場合には、不安感を和らげる治療をすると、めまいも改善することがあります」
めまいはホルモン補充療法はあまり効果が出ないとされ、漢方では当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などが使われている。
「耳鳴りと同じように、耳の三半規管が原因で起こることもあります。40~50代は難聴が出てくる年代でもあるので、気になるときは耳鼻科も受診してみるとよいでしょう」
めまいにとらわれすぎると不安感が強くなりがち。念のため耳鼻科でもチェックを。
【イライラ】
忙しい毎日をこなせない、自分にもいらついてしまう。
「女性ホルモンはハッピーホルモンですから、減少するとイライラも起こりやすくなります」
とはいえ、ひどくイライラする人もそうでない人もいる。これは、その人の性格や感性、おかれている環境にも大きく左右されるからだといえる。
では、何が更年期女性をイライラさせるのか。夫、子ども、職場の同僚……実は思いどおりにならない自分自身だったりして。更年期に入ると疲れやすく、無理がきかなくなる。これまでできていたことができなくなり「もっとできるはずなのに」という思いが爆発してしまい、家族に八つ当たりをしてしまう人も多いのではないだろうか。
現代は出産年齢が上がり、子どもの反抗期が更年期の一番つらい時期と重なってくる。仕事を続けてきた人は責任の重いポジションを任される時期だが、気力体力がついていかない。夫も仕事で忙しく、家の中のことはいわゆる“ワンオペ”になってしまいがちだ。
「イライラの原因は何か。それがわかったら、解決できるものかどうかを探ってみます。解決できないほうが多いのですが、それなら、自分の受け止め方を変える必要も出てきます」
診療では、ホルモン補充療法に加えて、抗不安薬を短期間使うことも。漢方では、抑肝散(よくかんさん)、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)がイライラや抑うつに効くという。
「カウンセリングもおすすめします。この世代の女性は、本当に悩んでいることを聞いてもらえる環境がないことが多い。言える場所を持つだけで、よくなる人もいるのです」
イライラはエネルギーを消耗する。物の見方を変えたり、話を聞いてもらうだけで違う。
【不眠】
眠りを左右する女性ホルモン、補充療法で効果があることも。
眠りに入りにくい、眠りが浅くなる、夜中に目が覚めいろいろ考えてしまう、汗をかいて夜中に何度も目覚める……。
不眠は更年期の症状としても多く、40代の閉経前から感じる人も。「月経前はいくら寝ても寝足りない」と感じたことのある人は多いはずだが、実は女性ホルモンの変動と睡眠には関連があるとされている。小川さんいわく、「月経が不順になるなど、女性ホルモン不足による症状がある状態で始まった不眠は、ホルモン補充療法も効果があります」とのこと。
OECD(経済協力開発機構)によると、日本は世界の国々に比べても睡眠時間が短く、中でも最も寝ていないのは、女性の40代とされている。仕事に子育てに忙しく、寝る時間が遅くなりがちな世代。更年期の不眠まで引きずりたくない。小川さんは、ホルモン補充療法のほかに睡眠薬の処方も行う。
「とはいえ、あまり早い年代から眠剤を使うとやめにくくなってしまうので、まず生活を見直し、いい眠りのとれる習慣づけをすすめています」
たとえば、寝る時間を決めて布団に入るのではなく、眠くなったら寝室に。朝は日光を浴びて体内時計のスイッチをリセットし、しっかりと朝食を。昼は体を動かし、夜ゆっくり入浴すると、リラックスして休息モードになる。布団の中に、明るい光を放つスマホを持ち込まないなどもお試しを。
「年齢とともに、自分の睡眠パターンが変わってくることを受け入れることも大切です。そんなに眠りにこだわらないことで、むしろ気が楽になって眠れる人も多いのです」
更年期は眠りの質が変わってくる時期でもある。一日の生活リズムを見直そう。
【ほてり】
快適でいられる気温の幅が狭く、暑かったり寒かったり。
総称でいうところのほてりは、“血管運動神経症状”といい、更年期の中心的な症状のひとつでもある。そのうち“のぼせ・ほてり”はぼーっと熱くなり、“ホットフラッシュ”はカーッとして汗がふき出る、ともいわれるが……。
「要するに自律神経がバランスを失い、体の温度調節機能がうまく働かなくなっている状態。症状の強さは、個人や状況で差があります。1時間に何度も滝のように汗をかく人もいれば、頭頂部から首にかけて熱く、手足は冷える、“冷えのぼせ”が続く人もいます」
快適に感じられる温度の幅が狭くなるので、少し室温が高いと暑いし、エアコンを強めにすると今度は冷えてしかたがない。人前に出ると汗が止まらない場合もある。けれど、暑いからといって熱が出ているわけではない。
「月経がきちんとあるときは高温期と低温期がありますが、閉経すると排卵がないのでずっと低温期。むしろ、体温はやや低めなのです」
更年期症状の中でも、最もホルモン補充療法が奏効するとされている。使用を始めて数日で、滝のような汗がすっかり治まることもよくあるという。
「梅雨どきの湿気の多い時季など、症状の強い間だけでも、ホルモン補充療法を試してみるのも手です。漢方なら桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)がいいでしょう」
のぼせがあっても、体温が上がっているわけではない。冷やしすぎないことも重要。
小川真里子(おがわ・まりこ)さん●東京歯科大学市川総合病院産婦人科准教授。福島県立医科大学卒業。慶應義塾大学産婦人科等を経て現職。日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医、指導医ほか。
『クロワッサン』1006号より
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