千住真理子さんインタビュー音楽と祈り〜演奏しながら慰められるという経験。 | 読む・聴く・観る・買う | クロワッサン オンライン
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千住真理子さんインタビュー音楽と祈り
〜演奏しながら慰められるという経験。

千住真理子さん。2016年でデビュー41周年。日本を代表するバイオリニストとして活躍するいっぽう、ラジオ番組のパーソナリティ、社会貢献活動など多方面で活動中。工学博士だった千住鎮雄氏は実父、エッセイスト・教育評論家の千住文子氏は実母、日本画家の千住博氏と作曲家の千住明氏は実兄という一家に生まれ育つ。
千住真理子さん。2016年でデビュー41周年。日本を代表するバイオリニストとして活躍するいっぽう、ラジオ番組のパーソナリティ、社会貢献活動など多方面で活動中。工学博士だった千住鎮雄氏は実父、エッセイスト・教育評論家の千住文子氏は実母、日本画家の千住博氏と作曲家の千住明氏は実兄という一家に生まれ育つ。
 

デビュー41周年を迎え、愛器ストラディバリウス「デュランティ」で弾くモーツァルトをレコーディングした千住真理子さん。順風満帆に見えるその活躍の前には、20歳の頃の大きな挫折と再生のものがたりがありました。

クロワッサン倶楽部(以下クロワッサン) 千住さんが愛用していらっしゃるバイオリン、デュランティ(ストラディバリウス「デュランティ」)が製作されたのが1716年。ということは…
千住真理子さん(以下千住) はい、今年で300歳なんです。
クロワッサン 新作アルバム「MARIKO plays MOZART」のライナーノーツには「デュランティとほぼ同年代のモーツァルトをたぐりよせた」と書かれていましたね。
千住 デュランティ自身が美しい音色を持っていて、その「美」がモーツァルトと重なると感じていました。でも、その音をちゃんと引き出すのにはやっぱり年月がかかって…このところやっと仲良くなれたかな、という感じがしています。
クロワッサン そうなんですか!
千住 人間同士と全く同じような感じで。わかりあえるというか、私が一方的にわかるためにはやっぱり時間が必要でしたね。
クロワッサン どういうところで感じるのでしょう。
千住 音をつくるのが非常に難しいんです。なにも考えていないといい音が出ない。音が割れてしまったり大きい音が出なかったり、小さい音を出そうと思っても大きい音が出てしまったり…緻密にイメージしながら丁寧に出さないと、ちゃんとした音が出てくれないというのが初めの頃の苦労でした。
クロワッサン 素晴らしい楽器だからいきなりいい音が出るということではないんですね。
千住 はい。ようやく仲良くなれたので大丈夫かなと。

 

挫折と再生、そして祈り

クロワッサン 千住さんは、20歳のころにさまざまな理由で一度バイオリンをしばらく辞められて、あるきっかけでボランティア演奏を体験されたときが転機となりまた演奏を始めた、とお話しされていますが、その時のことを少しお聞かせいただけますか。
千住 とても難しい時期でした。あの時一度、バイオリンを辞めた事に対して「避けられなかった運命」というのを感じます。そのくらい、いろんな理由が集中しました。谷底の底の底に落ちていくような恐ろしい時期でした。
クロワッサン そういうことがあったからこそ、今の自分がある、と思われることはありますか?
千住 運命ってあるんだろうな、と思います。おそらく誰しも、もがいても仕方がないときがある。その中で何をつかんでいくのか、どう納得していくのかということなのかな、と。
クロワッサン そのときから今まで一貫して「祈りの音楽」とおっしゃっておられますね。
千住 私は、音楽が祈りだと思った瞬間に救われました。人には必ず祈る瞬間があると思うのです。私は無宗教ですが、それでも祈る気持ちというのはあるんですね。ピンチに陥った時や絶望に陥っている時、誰か何とかして! と。それは亡くなった誰かにかもしれないし、心の中にいる神様にかもしれないけれど、そういう時に音楽は一番、心を表現するものであり、相手に寄り添えるものなのだな、と感じたのです。20歳の時に「これが音楽なんだ!」と、生まれて初めて音楽に出合ったような感動を覚えました。
クロワッサン 極限の精神状態の時に、音楽に救われるような気持になることが、本当にありますね。
千住 「音楽は祈りなんだ、これから先、辞めるとか辞めないということではなく私と一緒に音楽はある」と心から思えるようになり、再びステージに立つきっかけになったわけですが、その思いはずっと今もあります。
クロワッサン 演奏家も、演奏しながら慰められているということがあるのでしょうか?
千住 はい、ありますね。
クロワッサン 千住さんの生き方には、亡くなられたお母様をはじめとして、お父様やお兄様がたなど、ご家族のみなさまがずっと関わっておられるという印象があります。
千住 12歳でクラシックという大人の世界にデビューしたことが大きいですね。この仕事を受けるか受けないか、というような、子どもでは話せないこともある時に、兄たちや両親が出てくる。そういう意味では、子ども時代の私は「千住ファミリーが作り上げた千住真理子」だったなと思います。
クロワッサン 思春期の反発などはなかった?
千住 バイオリニストとしてあまりにも激しい、いろいろなことがあった10代でしたから、思春期どころではなかった気がします。毎日、毎日、自分に降りかかってくるさまざまな問題を家族全員で何とか解決していきながら、一歩ずつ前に進んで行った、というのが私の10代です。もう必死でしたね。
クロワッサン ご自身の小さい頃を思い返してみて、お母様がこうだったから良かったな、と思うことはありますか?
千住 どうやら母が上手に、バイオリンを弾きたくてしょうがないという気持ちに仕向けてくれていたようで、そのことには感謝しています。
クロワッサン 習い事を始めても、しばらくすると嫌になって辞めてしまうケースが多いですよね。千住さんが「まずテクニックを身につけて初めてそこから『表現』が始まる」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。子どもの頃に「ここを乗り越えたら、その先に『表現』という別の世界が待っているんだよ」とは誰も教えてくれません。
千住 それさえわかっていれば、子どもも「あ、そうか。これ、何とかできるようにしよう」と思えますよね。
クロワッサン 「あの時に楽器を辞めなければよかった」という話を、大人になったらよく聞きます。
千住 インタビューしてくださる方からも良く聞きますね。
クロワッサン 今、楽器でもスポーツでも、子どもに習い事をさせているお母様には、ぜひその先にもっと楽しいことが待っているよと伝えてみては? と、千住さんの言葉を聞いて思いました。

 

演奏家としての今とこれから

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クロワッサン 演奏家として、ご自身の体力と気力を整えていくためにどういうことに気をつけておられますか?
千住 スポーツ選手が体を鍛えるのと同じです。バイオリンを弾くという特殊な筋肉をつねに鍛えていないといけません。「心技体」という言葉がありますけれど、やはり精神的なプレッシャーに負けないということも考えていないと。それと、やはり技術ですよね。常に指を動かしていないと衰えていきますから、キープするためには日々の努力が必要です。
クロワッサン そのために運動をされたりとかも?
千住 水泳は必ずやっています。20代までは大丈夫なんですよ。何にも考えなくても寝れば元気になりますから。30代、40代、そして50代になってくればそうはいかなくなってくるので、疲れをいかにして取るか、あるいは疲れない体にしていくか、という努力が必要ですね(笑)
クロワッサン 著書にあった、パチンと指を鳴らすと演奏家の私になる、という話も印象的でした。一般のかたも、家族で大喧嘩していても外に出ればパチンと指を鳴らす瞬間が必要だと思うんですが、なかなかそうはうまくいかない。
千住 難しいんですよ。でもね、これは慣れ! 悩み事やトラブルがあると、そのことが頭から離れないっていうことがありますよね。どうやってそれをぱっと忘れるかというと、忘れたふりをすればいいんですよ。そのふりをしているうちに、だんだん、ふっと考えなくなる瞬間がある。その瞬間が少しずつ長くなる。そうやって繰り返していくと、切り替えることができるようになっていきます。
クロワッサン プロならではの、集中力をつける方法はありますか?
千住 一番よくやるのは、本番前に部屋を真っ暗にして耳栓をして、寝る姿勢で足を少し高く上げ、何も考えない時間を作ることです。頭の中にいろんな考えがあって、これを一つずつ出す、ということをイメージしながらやっていく。そうすると、いつの間にか時間がたっていて、パッと立ち上がった時にすっきりしているんです。
クロワッサン 苦手な曲に向き合う時は、その曲のいいところを見つける、という方法も、世の中のものごとや人間関係と似ていますね。
千住 本当。人とのおつきあいと似てますね。自分では苦手だなと思った曲でも、好きなところをひとつ見つけると、演奏しているうちにものすごく好きになっていくんですよ。
クロワッサン 日常で、これが支えになってるというものは何かありますか?
千住 これはもう、デュランティの存在です。この楽器を見るたびにうれしくなりますね。本当にここにあるんだ、本当にありがたいな、私のそばにいてくれてうれしいなと思います。
クロワッサン 今後10年後、20年後にどうなっていらっしゃるでしょう。
千住 よぼよぼのしわくちゃになったおばあさんの私がバイオリンを弾く、その姿が一番の夢です。その時によぼよぼのシワのある音を出したいんです。何ていえばいいかな? 人間臭い音を出したいな、と思いますね。

取材/文・池田美樹(クロワッサン倶楽部) 写真・鈴木智哉(キリンニジイロ)

 

【Information】

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最新アルバムMARIKO plays MOZART(¥3,240)

千住真理子オフィシャルサイト
http://marikosenju.com/
ユニバーサル ミュージック
http://www.universal-music.co.jp/senju-mariko/

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