戦時中の祖父を、孫息子の視点から語った「人生はパイナップル」は、単行本をまとめるにあたって新たに書き下ろした作品だ。
「2人の共通言語は野球なんですが、おじいちゃんと孫がキャッチボールをしながら、心を通わせていく様子がふっと浮かんできた。おじいちゃんはそのボールにどんな思いを込めるんだろう、と考えながら書いていました。他の作品は、自分の人生が語られているか、他人に自分の人生を重ねている。だから、ある人の人生を別の人が表現する、という新しい視点のものを入れたかった。一番最後に載せる短編ということもあり、じっくり時間をかけて書き上げました」
さまざまな技巧を使うことで、文章に自分だけの色を出す工夫もしたのだという。
「双子についての短編では、言葉遊びをしたんです。セリフを対にしてみたり、隣り合う文の字数を揃えたり。とにかく、テンポを意識しました。けれど、読む人にとっては、気にならないくらいの、自然な感じで。内容を褒められるよりも、“読んでいて気持ちいいね”と言われるほうがうれしいですね」
コピーライターの経験を持つ荻原さんは、読者のイマジネーションを支える文章をおろそかにはできないのだろう。
「文字だけの小説はどうしても読み手の想像力に委ねる部分が大きいですから、内容への感想は人それぞれでしょう。だけど、文章は嘘をつかない。いい文章と悪い文章は必ずある、と思っています。“どんな文章でも、それは個性である”と言ってしまうのは逃げなのかな、と。だから文章にはこだわりを持っていきたいですね」
物語や言葉とまっすぐに向き合う荻原さんの人柄が、本の中からにじみ出ている。言葉が織りなす想像の世界に浸りたい。