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【紫原明子のお悩み相談】夫の夢を応援できない私はステキな奥さんじゃないのでしょうか。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。あなたもお悩みを投稿してみませんか?

<お悩み>

夫の夢を応援できない私は、心が狭いのでしょうか。

夫は役者をやっていますが、それで暮らせるほど稼げてはいません。でも諦めずに続けていて、本業で一定の金額を稼ぎつつ、たまに入ってきた役者の仕事をしています。
先日、役者の仕事に本腰を入れたいから、現在の本業の日数を減らしたい、と言われました。 役者の仕事が入る保証のないまま、本業の収入が減ることになります。 私も働いていますが小さな娘もいるし… ただでさえ少ない収入が、さらに減るなんて無理、と反対してしまいました。
夫の夢は快く応援するのがステキな奥さんなのかなと思うと悲しくなります。お金のことは置いておいて、夫を応援すべきでしょうか。
(相談者:さばりぃ/事務職の39歳です。4歳の娘がいます。夫も同い年。収入は、私も夫も新卒レベルの収入で、2人合わせてようやくまともな生活をできるくらいです。)

紫原明子さんの回答

さばりぃさん、こんにちは。

早速ですが、お金のことは置いておいて夫を応援すべきでしょうか、ということですが私は全然そう思いません。

それは、一般的な社会規範に基づく大人としての責任とか、そういった理由からではなく、妻であるさばりぃさんが手放しで応援できないと思うこと、現時点ではこれが、残念ながら旦那さんの俳優としての能力にほかならないと思うからです。

もっとわかりやすく言えば、さばりぃさんが応援”できない”のでなく、旦那さんの能力が応援するに”足りない”のです。

考えてもみてください。旦那さんが俳優として神がかって素晴らしく、何を犠牲にしたって彼という存在は世の中の人に届けるべきだ、その価値があるものだと手放しで信じられるのであれば、さばりぃさんも旦那さんの俳優業に躊躇なく全面協力できるはずです。けれどもそれができないという時点で、旦那さんの才能というのは、少なくとも平凡……とは言わないまでも、そこまで突出して非凡に感じられるものではないのだろうと思われます。そして残念ながらそういう人は1つの分野にごまんといるのです。

つまり旦那さんがこれから俳優として売れるためには、そこまで突出して非凡なものではない程度の才能の人がごまんといるバトルフィールドで、どんぐりの背比べをして戦って、ちょっとの差で選ばれていかなくてはいけないということなんです。

 なんで私がそんな知ったふうな口をきけるかって、何しろ私もまた戦う凡人であり、ちょっとの差(主観)で妙にちやほやされているライバルたちを見ては、なんであの子が? ってこれまで1万回くらい思ってきました。

だけど何かのきっかけでそんな、本来の才能以上にちやほやされているように見える羨ましい人の近くにいってみると、大抵の場合共通点があって、それがとにかくもう、手放しで応援したくなる人、ということなのです。

もう少し具体的に言うと、そういった人たちは基本的にとても謙虚で、しかも他者へのサービス精神に溢れてます。ときには体を壊しかねないくらい献身的で、だからこそ、私くらいはこの人を支えてあげなきゃだめだなって思わせる、いわゆる人たらしの人です。きっと、私くらいはこの人を支えてあげなきゃ、って周囲に100人くらい思っている人がいるんです。そして、そんな風に思わせる人たらし力というのもやっぱり才能のひとつなのであって、つまるところ、れっきとした才能によって選ばれている、というシンプルな話なのです。

だから、旦那さんにも願わくばそういう、ある種のずるさ、したたかさに裏打ちされた人たらし力でもって、さばりぃさんをうまく丸め込んで、あなたのためならと喜んで働かせるくらいの才能を見せてほしいものですが、残念ながらそうはいかないようで……であれば、五十歩百歩の世界でのバトルもまた、なかなかに茨の道なのではなかろうかと思ってしまいます。

人気商売の世界で生きていくって言うんならまず私をファンの沼に落としてみなさいよ、とか、家族だからこそ言えることもあると思います。それでプライドを傷つけられたと言われたら、プライドではおまんまが食えんのじゃ、と言ってやったらどうですかね。……そうだ、旦那さんにはぜひ末次由紀先生の漫画『ちはやふる』を読んでいただきたいですね。物語もかなり佳境に差し掛かり、競技かるたにおいて圧倒的強さを誇る若宮詩暢クイーンが、それまでプロという概念がなかった競技かるたの世界に、プロの道を開拓しようと挑戦しているところなんです。私はどうしてもここに、作者末次先生の“プロ論”を感じずにはいられません。才能を磨くこと、道を極めることを綺麗事だけで終わらせてはいけない。一生を捧げられるほどその世界に身を捧げる覚悟があるのなら、それをやりながら金を稼ぎ、食っていくことを考えろ、と。そして、その覚悟がないならプロを語るな、と。そういうメッセージなのではないだろうかと感じるのです。

ちなみに旦那さんを応援できないことを、“ステキな奥さんになれない”なんて悲しむ必要はまったくないと思いますよ。良い家族とか、良妻賢母とか、ステキな奥さんとか。古い家族観は多くの場合、男性と女性の役割を固定して、それぞれの選択肢を奪った限定的な状態でこそ成立していました。しかし、女も男もより自由に生きることが可能となった今、それらはときに現代人の足をゾンビのように引っ張る、鬱陶しい呪いと化しているケースも少なくありません。ですのでいつの間にやらインストールしていた社会の価値観に惑わされることなく、何が自分と家族にとって幸せなことか、ゼロベースで考えたほうが、より幸せへの近道だと思いますよ。

イラスト:わかる
イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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