【前編】ずっと自分の歯で食べたいから、信頼できる歯科医選びのポイント。
撮影・中島慶子 イラストレーション・安ケ平正哉
まずは歯の仕組みと歯を失う二大原因を知っておく。
最近、歯茎が腫れたり、歯をみがくと出血するようになった。以前治療した歯が時々痛む。あるいは、この歯は持たないと診断されて抜歯された……加齢とともに、歯の悩みは深まるばかり。「自分の歯を生涯使用してもらう」ことをモットーに歯科治療を続ける齋藤博さんは、私たち患者も歯の知識を持つことが大切と話す。
「多くの人は歯を失った後に、その価値に気がつきます。さらに言えば、抜歯がきっかけとなって次から次へと歯を失っていきます。抜歯するかどうかは、明確な定義はありません。歯科医の考え方や事情で判断されてしまうことが多い。それなりの知識を持つ患者さんには歯科医も生半可なことはできません。治療内容の説明を受けて、疑問を抱いた時には質問をしたり、どのような治療を望んでいるかを伝えることが大事です」
現在、歯科医院の数は約6万8000軒とも言われ、全国のコンビニエンスストア(2017年12月時点で約5万5000店)よりも多い“過当競争”にさらされている。齋藤さんは歯科医に抜歯と診断された際は、セカンドオピニオンを受けることも勧める。
「レントゲン写真を見ながら“この歯の根は腐っているので抜かないと”とか“放置すると、周囲の歯もだめになる”といった脅し文句を抜歯の際に使う歯科医のもとで治療を受けてはいけません。少し考えさせてくださいと告げて治療を回避するか、別の歯科医院にも行ってみてください」
歯の大半が無くなっても抜かずにすむ場合もある。
では、歯の構造や抜歯にいたる二大原因の虫歯と歯周病の仕組みを知っておこう。歯の表面に出ている部分(歯冠部)はエナメル質でできている。人間の身体のなかでいちばん硬い組織で、水晶並みの硬度がある。厚みは2〜3mmほどあり、歯に対する外部刺激から歯髄(歯の神経が通っている部分)を守っている。ただし、歯冠部と歯根部の境にある歯頸部のエナメル質は咬合面(噛み合わせ面)に比べて薄く、歯ブラシ等で強くみがき、摩耗させると、内側にある象牙質が露出して、知覚過敏になりやすくなる。
「もともと薄い歯肉(歯茎)も、こすりすぎるとすり減り、下がってきます。この状態が続くと、象牙質ばかりかセメント質も露出してしまいます」
知覚過敏になると、歯ブラシが当たるだけで痛みを伴うため、歯みがきが満足に行えない。すると、虫歯の原因になるプラーク(歯垢)が付着したままの状態になるばかりか、象牙質の表面に窪みができて、そこにプラークがたまることになる。
「プラークが虫歯を起こし象牙質まで進行すると、治療の際には麻酔が必要になります。さらに虫歯が歯髄まで達すると、この組織を取り除く処置を行います。一般的に歯科医から『神経を取る』と言われる治療です」
さらに、虫歯が進行して、歯冠部の大半が残っていない状態(イラスト「C4」参照)になると、いわゆる抜歯をされることも多い。
「ただし、この状態でも歯の残存量によっては歯を残す治療を行える場合もあります。歯科医の診断能力やスキルには大きな差があります。患者さん本位の治療をしている歯科医なら、平易な言葉で診断結果を伝えて複数の治療方針を紹介したり、それぞれのメリット、デメリットを説明するはずです」
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