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【井上荒野さん × 須賀典夫さん】結婚を保証だと考えると、人生がつまらなくなりそう。【前編】

撮影・青木和義 文・黒澤 彩

井上荒野さん(作家) × 須賀典夫さん(古書店主)

【井上荒野さん × 須賀典夫さん】結婚を保証だと考えると、人生がつまらなくなりそう。【前編】

「電球を替えただけで感動するから、驚いたよ」(須賀さん)

「父と比べれば、夫はすごく家庭的なのかも」(井上さん)

作家の井上荒野さんと古書店主の須賀典夫さんは、結婚16年目の今も仲睦まじい夫婦。お互い自宅が仕事場で、常に一緒にいることが当たり前だ。
「付き合い始めた頃は結婚なんてちっとも意識していなくて、ただ一緒に暮らせればいいと思っていました。でも、同居するようになって、籍を入れたほうが何かと面倒がなさそうだということで入籍したんです」と井上さん。そんなふうに結婚という制度をどこかクールに捉えるようになったのは、両親のやや特殊な夫婦のあり方を見てきたからかもしれないと話す。

井上さんの父は、戦後日本を代表する作家の一人である故・井上光晴さん。光晴さんが所帯を持ちながら、瀬戸内寂聴さんと恋愛をしていたことは有名で、瀬戸内さんが仏門に入ったのも、光晴さんとの関係解消がきっかけだったという話もある。
「私が5歳のときに父は瀬戸内さんと出会って、8年続いたそうです。でも私は、そのことを大人になるまで知らなくて。いつも週末になると父は泊まりがけで出かけていくんだけど、母は不機嫌になったり落ち込んだりすることもなく、家では両親の仲がよかったんですよね。今にして思えばいびつな状況だったのに、不思議と家族みんな幸せに暮らしていました」

女性関係に限らず、光晴さんは破天荒なエピソードには事欠かない。一般的なよき父親像とは違っていた光晴さんが反面教師となって、井上さんは“父親らしい”ところのある男性に惹かれるのだという。夫の須賀さんが自転車のパンクを直してくれたことにいたく感動し、実家の網戸のレールにスプレーをシュッと一吹きしてすべりをよくしてくれたときには、母と2人して感激した。
「こんなことで喜んでくれるのかと、驚きました」と須賀さん。
「電球を替えてあげたときもずいぶん感動していたなぁ。でも妻から光晴さんのことを聞くにつけ、そうなるのもわかるような気がするんです。だって、光晴さんは自分でプラモデルを買ってきて、奥さんに『作ってくれ』と頼んだそうですよ。おもしろい人ですよね」

昭和文学などの古書を扱う須賀さんにとって、井上光晴という作家はやはり特別な存在。だからこそ、ある日メールで本を注文してきた顧客の名前を見たときに(荒野さんの名は本名)、その人が娘だと気がついたのだ。
「ちょうどその時期、井上光晴の追悼文集を手に取っていたんです。そこに寄稿していた長女の名前と同じだったので、ひょっとしてお嬢さんですか?とメールを送ってみました」

それからしばらく、メールのやりとりを続けていた2人。映画の話題などでも意気投合したそう。
「ホームページに彼の俳句や映画評などが載っていたのですが、その俳句がおじいさんっぽい趣味のものではなくて、前衛的ですごく格好よかったんです。映画は、アンドレイ・タルコフスキー監督の『ノスタルジア』『ストーカー』とかについて。好みが合うし、なんといってもメールの文面がおもしろかったので、この人とは話ができそうだなと思いました」(井上さん)

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