「渋谷だけで何十軒とレコード店があって、どこも活気がありました。情報も少ない時代だったからみんな自分の足でお店に行って、新しい音楽を探していたんですね」
パイドパイパーハウスはマニアックな品揃えで知られていた。売れ筋の人気アーティストより、ドクター・ジョン、ヴァン・ダイク
・パークスといった玄人好みのセレクト。ところが不思議な笛の音で子どもを誘う「ハメルンの笛吹き」のごとく、一度この店に足を踏み入れた者は、その音楽の虜となってしまった。扱うのはもちろんアナログレコードだ。
「レコードには手ざわりやにおいがあります。袋から出してプレイヤーに置き、針を落とす。A面が終わったらひっくり返す。手間はかかるけど、その一連の行為には、音楽をいつくしむ気持ちが込められていたと思います」
本書には長門さんと細野晴臣さん、故・大瀧詠一さんらミュージシャンとの交流も描かれる。日本のポップミュージック黎明期の貴重な記録であり、同時に、音楽と私たちの幸福な関係の物語でもある。