【俳優・奈緒さんに聞いた】言葉の応酬で露わになる人間の業、その先の真実──映画『死ねばいいのに』
撮影・シム・ギュテ スタイリング・岡本純子 ヘア&メイク・竹下あゆみ 文・兵藤育子
京極夏彦さんによるミステリー小説『死ねばいいのに』を映画化した本作。衝撃的なタイトルは、誰に放たれた言葉なのか。主人公・渡来映子を演じる奈緒さんが、出会ったばかりの男性に対し矢継ぎ早に質問を浴びせる冒頭シーンから、観客は不可解の海に引きずり込まれていく。
「映子としては詰め寄っているつもりはなく、湧き出る疑問をぶつけているだけなのでしょうけど、相手にとっては理解できないような熱量で、触れられたくないところまで踏み込んでくる。知りたいっていう純粋な動機ゆえの怖さだと感じました」
鹿島亜佐美という女性が、ビルの屋上で殺されているのが発見される。犯人や犯行動機は不明。そんななか映子は「知人」を名乗り、「亜佐美のこと、聞かせてもらいたいんです」と彼女と付き合いがあった人のもとを尋ね歩く。不倫関係にあった上司、隣人、恋人、母親などの証言から浮かび上がってくる、亜佐美の人物像。なぜ彼女は殺されなければならなかったのか。そしてなぜ映子は、亜佐美のことを執拗に知ろうとするのか。
「映子のバックボーンについて、当初自分のなかで考えてはいましたが、ひと目見てどういう人なのかわからないところに、むしろ映子の軸があるのではないかと思いました。きっとこの人は、自分のことをすらすらと説明できるような人ではないだろうなという印象を受けたので、いつもよりも余白をもって臨みました」
映子が会いに行く人物との対話劇に、時折挟み込まれる「草原」のシーンが虚と実の境をあやふやにする。それまで会話していた室内などから突如、暗闇の草原に場面が転換し、感情が剥き出しになったような錯覚をもたらすのだ。実際の自然の中で撮影されたそうで、スタッフ一同、不思議な高揚感があったと振り返る。
「草原のシーンは概念を表現しているからこそ、先に撮っていたセットでのシーンを再現するのではなく、自由に演じることができました。急に霧が立ち込めるなど想定外のことが起きたりして、人間の力の及ばなさが映し出されていると思います」
本作を含め、近年はチャレンジングな役に積極的に取り組み、演技の幅をさらに広げている奈緒さん。
「作品と相思相愛でいられるのが理想です。出演のオファーをいただいたときに、愛を持って役を全うできるかどうか、自分に何度も問いかけることもあります。映子は今まで出会う機会がなかった役だったからこそ、想像できない気持ちに辿り着けるかもしれない期待がありました。実際に演じてみて、彼女が教えてくれた心の動きや揺れが、たくさんあったと思っています」
『死ねばいいのに』
『マイ・ダディ』に続き、奈緒さんと金井純一監督がタッグを組んだ異色ミステリー。殺された亜佐美のことを知ろうとする映子。さまざまな人から語られる亜佐美の姿とともに、事件の真相や人間の醜さが浮かび上がる。
脚本:喜安浩平
原作:京極夏彦
出演:奈緒、伊東蒼
東京・テアトル新宿ほか全国公開中。
『クロワッサン』1169号より
広告