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不安を和らげ、心をつなぐ。編み物ボランティアから広がる「認知症マフ」の輪

超高齢社会が進む今、認知症による不安を和らげ、医療現場での身体拘束を減らすアイテムとして「認知症マフ」が注目を集めています。横浜市六浦地域ケアプラザで「認知症マフ」作りのボランティア活動を牽引する山田和恵さんと堀内良子さんに、その効果と地域に広がるケアの輪について伺いました。

文・クロワッサン編集部

横浜市六浦地域ケアプラザでは「認知症マフ」の制作ボランティア活動が行われている。その様子を取材した
横浜市六浦地域ケアプラザでは「認知症マフ」の制作ボランティア活動が行われている。その様子を取材した

「認知症マフ」とは? 触れることで生まれる安心感

「認知症マフ」を知っていますか。イギリスで「Twiddle Muff(ツイドル・マフ)」として生まれた、両手を入れることのできる筒状のグッズのことで、日本ではこれが「認知症マフ」と呼ばれています。ニットで編まれているため、両側から手を入れて温かさを感じたり、飾りを触ったりすることができる仕様になっています。その効果として、心身の緊張がほぐれ、認知症の人の心を落ち着かせるとされています。

(左)済生会 横浜若草病院の前看護部長(撮影時看護部長)・堀内良子さん。六浦地域ケアプラザで「認知症マフ」が作られるようになったきっかけをもたらした。(右)横浜市六浦地域ケアプラザ 地域活動・交流コーディネーター・山田和恵さん。ボランティア部の活動として「認知症マフ」の制作を呼び掛けた
(左)済生会 横浜若草病院の前看護部長(撮影時看護部長)・堀内良子さん。六浦地域ケアプラザで「認知症マフ」が作られるようになったきっかけをもたらした。(右)横浜市六浦地域ケアプラザ 地域活動・交流コーディネーター・山田和恵さん。ボランティア部の活動として「認知症マフ」の制作を呼び掛けた
堀内良子さん
堀内良子さん

堀内良子さん(以降、堀内さん) 「日本でも近年、医療や介護の現場で導入が進んでいます。その大きな理由が、身体拘束の軽減です。入院などの環境変化により、認知症の症状やせん妄で点滴の管を抜いてしまう患者に対し、やむを得ず「ミトン」と呼ばれる手袋で手を固定することがあります」

山田和恵さん(以降、山田さん) 「そうなんですよね。私自身、母が入院し、大きなミトンをはめられた経験があって……。その姿を見て、涙が出そうになったんです。でも、医療の現場を考えると仕方のないこと。それでも、ほかに何かできることはないかと、その時強く思ったんです」

山田和恵さん
山田和恵さん

堀内さん 「実際に当事者になってみると、受け止め方も変わりますよね」

山田さん 「まさに、そうですね」

堀内さん 「拘束の代わりにマフを触って落ち着いていれば、ミトンを使わない時間ができるのではないかと思います。触ることで手指を動かし、注意を他へそらすことができます。感触を楽しんだり、可愛いものをベッドに置くことで心が安らぐだけでなく、ご家族や看護師、ケアワーカーなど、当事者と身近な人の間の会話のきっかけにもなるんです」

思いやりを形に。ボランティア部が紡ぐこだわりのマフ

神奈川県にある済生会横浜市六浦地域ケアプラザでは、2023年末からボランティア部で「認知症マフ」の制作を本格的に開始しました。きっかけは、近隣の済生会横浜若草病院で当時、看護部長だった堀内さんからの「認知症の理解と啓発のために、一緒にマフを作ってもらえないか」という依頼でした。コロナ禍で“おうち時間”が増え、手芸が再ブームになったことも活動を後押ししました。

この日は20人ほどの部員が参加。おしゃべりに花が咲きます。「この日が初めての参加で」という人もすぐになじんで楽しそうにしている様子が印象的
この日は20人ほどの部員が参加。おしゃべりに花が咲きます。「この日が初めての参加で」という人もすぐになじんで楽しそうにしている様子が印象的
横浜市六浦地域ケアプラザは地域の高齢者や住民が安心して暮らせるよう、介護サービスを中心に多様な支援を行う施設。済生会が運営する
横浜市六浦地域ケアプラザは地域の高齢者や住民が安心して暮らせるよう、介護サービスを中心に多様な支援を行う施設。済生会が運営する
取材日は、終日ボランティア部の活動デーでした
取材日は、終日ボランティア部の活動デーでした
この日は20人ほどの部員が参加。おしゃべりに花が咲きます。「この日が初めての参加で」という人もすぐになじんで楽しそうにしている様子が印象的
横浜市六浦地域ケアプラザは地域の高齢者や住民が安心して暮らせるよう、介護サービスを中心に多様な支援を行う施設。済生会が運営する
取材日は、終日ボランティア部の活動デーでした

ボランティア部に所属するメンバーは50人以上。60〜80代の人が多く活動しています。少し広めの集会場のようなスペースに、月に1〜2回ほど集まって活動されているそう。取材の日も“ここに集まることが楽しみでしょうがない”、そんなわくわくが伝わってくるような柔らかな雰囲気の中で、色とりどりの「認知症マフ」が高速で編まれていきます。

ボランティア部の増田さんは、なんと取材時86歳。年齢を感じさせない、ピンとした背筋とハツラツとした雰囲気
ボランティア部の増田さんは、なんと取材時86歳。年齢を感じさせない、ピンとした背筋とハツラツとした雰囲気

お話を伺った増田さんは「ここに来るようになって、新しく友人ができました。年をとってこんなに楽しく活動できるのは本当にうれしいこと。ボランティア部での活動は私にとって生きがいです」と明るい声で答えてくれました。

帽子やお花など、かわいらしい装飾が心をくすぐります
帽子やお花など、かわいらしい装飾が心をくすぐります

制作には細やかな気配りが光ります。

「部員のみなさんには、“自分が貰ったら嬉しいと思う色の組み合わせ”で工夫を凝らして作ってもらっています。見た目のこだわりだけでなく、誤飲を防ぐためにボタンやプラスチックは一切使わず、厳しい最終チェックも行っています」と山田さん。

不安を和らげ、心をつなぐ。編み物ボランティアから広がる「認知症マフ」の輪

さらに、毛糸だけでなく、寄付された着物をほどいて布製のマフを作ることも。着物の肌触りは、昔着物を着ていた高齢者にとって懐かしさを呼び起こし、触覚から心が癒されるという効果もあるそう。

手作りが地域をむすぶ。幅広い世代で育む「認知症と生きる」社会

ボランティア部の「認知症マフ」作りの活動は、単なる制作にとどまらず、地域全体を巻き込んだ活動へと発展しています。例えば、近隣の幼稚園児や小学生も、指編みで「認知症マフ」に取り付ける小さなパーツを作って参加しているそう。子どもたちが関わることで、その保護者たちも認知症について考えるきっかけとなり、地域での理解が自然と深まっているのです。

また、この活動は作り手であるシニア世代にとっても大きな意味を持っています。指先を動かし、仲間とおしゃべりしながら工夫を凝らすことは、楽しいだけでなく認知症予防にもつながります。

自分が作ったマフが病院で使われているのを見たボランティア部のメンバーは、「社会の役に立っている」と大きなやりがいを感じているそうです。横浜市ではボランティア活動にポイントが付与される制度もあり、それも活動へのモチベーションの一つとなっています。

不安を和らげ、心をつなぐ。編み物ボランティアから広がる「認知症マフ」の輪
幼少期に海外で暮らし、誰もが自然と助け合うボランティア精神に感銘を受けたという山田さん。「子どものう…

幼少期に海外で暮らし、誰もが自然と助け合うボランティア精神に感銘を受けたという山田さん。「子どものうちからボランティアの素地を整えていくことが大切だと、マフ作りを通じて伝えていきたい。そして、誰もが安心して暮らせるまちづくりにつなげたいです」と語ります。

作られたマフは横浜市内外の病院に寄贈され、さらには国際交流の一環としてベトナム・ダナンの病院へも海を渡るなど、その輪は着実に広がっています。手から手へ伝わる温もりが、認知症の人と社会を優しくつないでいます。

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