いつでも人を呼べる家が、これからの人生には必要です
撮影・黒川ひろみ、小川朋央 スタイリング・矢口紀子 文・小沢緑子 撮影協力・AWABEES
田中ナオミ(たなか・なおみ)さん 一級建築士。“生活を積極的に楽しむ”がモットーで、生活者目線の住宅設計を行う。近著に自身の暮らしも紹介した『60歳からの暮らしがラクになる住まいの作り方』。
小林マナ(こばやし・まな)さん インテリアデザイナー。夫の恭さんと設計事務所「ima」を主宰。公園に面した自宅兼事務所では、ボランティアで預っている保護犬イチゴと飼い猫マロンも同居。
50代以降に必要なのは、人が来やすく自分が出かけやすい家
夫婦ふたりきり、自分きりの世界は停滞する。新しい風を通すためにも、人を呼べる家に
家で過ごす時間が長くなる傾向の50代以降。ともすると一日中夫婦ふたりきり、自分ひとりになりかねない。
「年齢を重ねても、外の空気を吸収して家に戻れるのが理想。夫婦それぞれに別の交流があるほうが、新しい風が通ります。暮らしが停滞しないためにも、人が来やすく、自分たちが出かけやすい家が必要だと思います」と語るのは、田中ナオミさん。
住まいが仕事場を兼ね、人が集まるのが日常という小林マナさんは、
「友人を招くと『ほかの人も誘っていい?』という展開も(笑)。でもそれが楽しい。ご近所にも行き来ができる人がいると心強いですね」
いいところを見せようとしなくていい。人を招くにはまずマインドチェンジから
「いま『とても人なんか呼べない』と思っているとしたら、『人を招くなら、きちんとおもてなしをしなくては』と自らハードルを上げているのかも。極端なことを言えば、出すのはスナック菓子だってOK。ポテトチップスをお気に入りの器に盛れば充分です。もっと気楽に考えていいと思いますよ」と、田中さん。自身も50代以降、友人と集まるときは自宅に招くことが増えたそうだが、
「目的は話すためで、家を見せるためじゃない。何を食べるかより誰とどんな会話ができるかが大事。好きな人たちと大笑いしながら、まっすぐ話ができる場であればいいんです」
そろそろ自分の“好き”を家に反映、自分らしい空間なら、呼びたくなる
「人を呼べない理由をさらに深掘りしてみると、今の家には『自分らしさ』が表れていないと心のどこかで思っているのかもしれません。自分の好きなインテリアや衣食住のスタイルを家の中にもっと反映してみてはどうでしょう」(田中さん)
これまで家族優先で自分好みに整えられなかったという人は、
「どこか棚の一角でいいので自分の好きなものだけを置いたり並べるコーナーを作ってみるといいのでは。自分にとって愛しいと思える場所が1カ所でもあると自分の家が好きになりますし、自信を持って人を呼べると思います」(小林さん)
一緒に住む人への配慮も忘れずに。お互いのハッピーを邪魔しないのが大切
人を呼ぶときは家族にも忘れずコンセンサスをとって、と田中さん。
「誰をいつ呼ぶのか、どう協力してもらえるかを事前に話しておくのはとても大切。私自身でいうと、人を招いたら一緒にお酒も会話も楽しみたいので、実質的に夫を巻き込まないと回らないのですが(笑)」
さらにこう続ける。
「家族が来客慣れしていなければ『私がキッチンにいたら、話をつないでね』『空いた皿はそっと下げて』など、前もってオペレーションを確認。ゲストが帰ったら協力してもらった感謝を伝えると、その後も協力的になってくれるかもしれません」
人が集まる家には理由がある、その心地よさの共通項
[玄関&トイレ]
ウェルカムの気持ちは、ささやかな配慮で充分
仕事の来客をはじめ、友人知人など人が集まることが多い小林さんの事務所兼自宅。その例(これ以降の写真すべて)を参考に“いつでも人が呼べる空間作り”を考えたい。まず玄関を入って目に留まるのが、正面の飾り棚。
「来客時にわざわざ準備をしたり特別なことはしておらず、普段の延長=日々の生活を楽しむ空間のまま。玄関正面の棚は玄関を開けると真っ先に目に入る場所なので、楽しんでもらえるよう自分の好きなコレクションを並べています」(小林さん)
来客も共有するトイレは「清潔さが一番。あと気を配るのは香りくらいで、アロマストーンにルームフレグランスを吹きつけていますね」。
[キッチン]
気兼ねなく使える、出入り自由の台所
小林さん宅のキッチンは事務所スペースのある1階に位置し、事務所のスタッフとも共有している。
「家に遊びにくる友人たちもキッチンは出入り自由。何がどの引き出しに入っているのかも把握していて、カップや器も自由に使ってもらっています。そのため、『キッチンは使ったらすぐ片づける』のがルール。シンクに洗い物のカゴも置かず、道具は使ったら元の場所に戻すようにしています」(小林さん)
田中さんも、人を呼んだときはキッチンで手伝ってもらったほうが、ゲストも気兼ねないのではと言う。
「飲みたいものを自分で作れると気楽。料理の支度も手伝ってもらえれば、より負担なく気軽に集まれるようになると思います」(田中さん)
[パブリックスペース]
共有スペースには夫婦が許容できるものだけを
家の中で、小林さん夫婦が徹底させている決まり事がリビングなどのパブリックスペースの使い方。
「以前リビングの棚が夫の趣味のレコードで占領されていて、その圧が強すぎました(笑)。この家に引っ越してからは『共有スペースには互いの私物は置かない』ことをルール化。ふたりで集めたものや互いに心地いいと思えるものだけを置いています」(小林さん)
その代わり、夫婦それぞれ私的なコレクションは個々の部屋で管理。
「家の中のどこかを自分専用スペースにしてそこだけは自分の好きなものが溢れていてもいい趣味部屋にすると、共有スペースに私物を持ち込まなくなるのでスッキリ。いつ誰が来ても慌てることもなくなります」
[アート]
好きなものを飾って、暮らしと季節を楽しむ。
生活空間にアートがすんなり溶け込んでいる小林さん宅。1階の事務所と2階の住居をつなぐ階段に置かれていた止め石(上写真)もアート。
「『上には行かないで』というメッセージも兼ねて。どんなに小さなものでも好きなアートがあると、家の中が楽しくなります」(小林さん)
器や花でもいい、季節が感じられ、自分が美しいと思うものを日常に取り入れて、と田中さんも言う。
「庭で摘んだ花が一輪飾ってあるだけでも、ホッとできます。年齢を重ねる中で今まで感動してきたものの蓄積や経験値もどんどん増しているはず。その審美眼を生活に惜しみなく活かして、自分らしさを家の中にも反映させて」(田中さん)
[リビング&ダイニング]
みんなが座れる場所と、まっさらなテーブル
田中さんが、自分が設計した家の住み手にいつもアドバイスしているのが、「リビングやダイニングのテーブルの上に何も置かない」こと。
「便利だからと文房具や調味料なんかをテーブルの上に置きっぱなしにしがちですが、そこはそれらの定位置ではない。せっかく家を自分らしく整えたとしても、その風景が台無しになってしまいます」(田中さん)
小林さんも、まっさらなテーブルをルールづけている。
「ダイニングテーブルは、仕事の打ち合わせやスタッフと一緒にランチもする場所なので、使用後は物を片づけてテーブルの上を拭いてリセットするのが鉄則。丸テーブルだと何人でも座れて便利です」(小林さん)
[おもてなし]
食は簡単なものでいい。好きなお茶をふるまって
「家に人を呼ぶときに『おもてなしをしよう』『料理もちゃんと準備しよう』と思ってしまうと私は緊張してしまうんです。気負わず、自分がおいしいと思ったものを出すようにしています」(小林さん)
特にお茶は好きで、普段からいろいろ試しているそう。その時のお気に入りをふるまうことで会話の糸口にも。友人と家で食事をするときも、
「せっかく集まるのだからやはりお喋りを楽しみたいので、キッチンにこもらなくても出せる簡単なものだけに。冷蔵庫にあるピクルスやチーズをつなぎにして、あとは火にかけたら放っておいても出来上がる野菜の蒸し物などをメインにすることが多いです」(小林さん)
『クロワッサン』1167号より
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