『劇場という名の星座』 著者 小川洋子さんインタビュー ──「劇場は生きている人と死者が時を共有する場所」
撮影・中村ナリコ 文・クロワッサン編集部
日除けや冷え対策にも便利なシアーカーディガン
コットン100%で軽くて涼しい素材ながら、日差しや冷房の冷えからもしっかり守ってくれるカーディガン。これから暑くなる季節に持っておきたい、心強い1枚です。
2025年2月、改装のため一時休館となった帝国劇場。小川洋子さんの新刊は、この場所で繋がるさまざまな人たちを描いた短編集。案内係、俳優の付き人、エレベーター係、そして観客。本作を手がけたきっかけは何でしょう?
「前の作品『掌に眠る舞台』で帝劇を取材したことがありました。そのときは短編を1本書いて終わりだったのですが、今回の建て替えの話が出たときに、支配人だった方が私を憶えていてくださり、『帝劇のことを小説の形で残せないだろうか』という話をいただきました」。ひとりの支配人の帝劇愛から生まれた本、そのエピソード自体が短編集のひとつの章のよう。人の記憶の儚さとそれゆえの愛おしさは、小川さんの小説の重要なモチーフでもある。
舞台に立つ人と支える人、抱える緊張感は同じ
執筆にあたり多くの取材を重ねた。俳優、OBOG含めた製作陣、今回初めて存在を知った職務も。
「印象的だったのは、裏方さんで普段目立たない仕事をされてる方のひたむきさ。誰に褒められるわけでも拍手をもらうこともなく、与えられた仕事を黙々とプロの高いレベルでされてきた。その姿は本当に美しいと思いました。裏方が失敗すると必ず舞台に響くので、演者と緊張感は一緒なんです。エレベーター係が間違えたら俳優が出に間に合わない。あるいは外国の演出家の通訳の方の言葉ひとつで、迷っていた俳優が役をつかむことも。そういう役割をこなす人の集団によって演劇は作られているのだと思いました」
帝劇を支えていたのは現役のスタッフだけではない、とも。
「長い歴史で、今はいなくなってしまった人の記憶もいろんな形で刻まれていて、それが地層のように劇場を温かく包んでいるように思えました。いま舞台を作っている人たちが、日々その残っている気配に向かって『守ってください』と祈りながら公演を続けていく。劇場は、生きている人と亡くなった方の境がない場所だと思うんです」
舞台の上でも演者が生死の境を越えることも多いですね。
「そうですね。劇場に行くと、その境界線に留まることができる。生と死を平等な視線でとらえることができるんです。日常生活では、生きている今の自分に散々とらわれているのにね」
小川さんがミュージカル好きであることは知られている。作家として何に惹かれますか?
「とにかく私が打ちのめされるのは、役者さんが生身の体でひとこと、例えば『神よ……』と歌うともうそれだけで作家が何枚費やしても届かないほど、人の心の奥底に響くということ。でも自分は小説でこれをやらなくちゃ、と思える感じもあるんです。負け戦かなと思いながらもね。読んだときに空気が動いたかのように感じてもらえる文章が、小説の力を借りれば書けるはず。言葉の世界を引き戻すような。そう信じて書いていきたいなと思います」
『クロワッサン』1164号より
広告