『愛しの京都〈純喫茶〉』著者 甲斐みのりさんインタビュー ──「愛してやまない喫茶店を巡りました」
撮影・鳥羽田幹太 文・鳥澤 光
〈六曜社珈琲店〉から〈珈琲の店 雲仙〉まで16の名前が並ぶ『愛しの京都〈純喫茶〉』。初めての著書、『京都おでかけ帖』の刊行から20年を経て出された、甲斐みのりさんにとって6冊目となる“京都本”が話題だ。
「京都の喫茶店というテーマでは素晴らしい本がすでに何冊も出ているのですが、文筆業20周年の節目というタイミングもあり、原点に立ち返ってみようという思いで書き下ろした一冊です」
京都への憧れがはっきり形になったのは高校の修学旅行のとき。大学時代には、植草甚一と池波正太郎のエッセイの言葉に導かれて〈イノダコーヒ本店〉を訪れた。その後、〈喫茶ソワレ〉の存在が京都に通うのではなく、この街で暮らすことを決意させた。
「京都で暮らした20代前半の3年間は、人生のなかでも特に濃厚で強烈」だったという甲斐さんの、物を書き、作る人としての人生を大きく動かした一軒が三条の河原町通り沿いにある。
「〈六曜社珈琲店〉の地下店で、『少女は煙草を吸うためにマッチを擦るのではなくマッチを擦るために煙草を吸う』というフレーズとともに、オリジナルのマッチを作るというアイデアが浮かびました。何者でもなかった自分だけど、今この瞬間から始めよう!と決めて数カ月後にはタウンページで探した業者さんに頼んでマッチを制作。この本の装丁をしてくれた横須賀拓さんも、当時マッチのデザインに参加してくれました。京都や東京の書店や雑貨店で委託販売してもらったところから、雑誌からの問い合わせや掲載に、さらに現在まで続く文筆家としての仕事につながっていきました」
喫茶店という舞台を形作る店主の思いと哲学に触れる
店に赴き取材を重ね、古くは戦前にまで遡って歴史や建築まで調べに調べたディテールに、甲斐さん自身の思い出が絡み合って重層的に語られていく。
「20年の間に何度もお世話になった店、代替わりした店主に初めてお話をうかがった店、お客さんとしてではなく初めて取材をお願いした店もあわせて16軒。それぞれに創業者やマスターの人柄や趣味、無意識まで垣間見えるかのような個性がある。雰囲気もルールも違うんです。1軒につき1冊ずつ本を書きたいくらい、ドラマ化してほしいくらいの濃厚な時間と思いの蓄積がありました。そんな魅力をダイジェストのように手渡すことを思い描きながら、書いていきました。本を読んでくださる方が、京都に、喫茶店に思いを馳せつつ、ご自身の過去の時間や記憶の手触りを思い出すきっかけになれば著者として幸せです」
読み物としても、ガイドブックとしても活躍必至の一冊。
「実際に店を訪れて、本を読んだり手紙を書いたり、コーヒーを入れる所作を眺めたり。喫茶店という、それ自体が嗜好品のような、舞台のような特別な空間をぜひ味わってください」
『クロワッサン』1161号より
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