『水は動かず芹の中』中島京子 著──戦争を止めようと奮闘した水神たち
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
スランプに陥った小説家が、気分転換に唐津を旅行。陶芸体験のために訪れた工房の夫婦、サワタローとナミエにもてなされ宿泊もして親しくなった彼女は、その後も工房を訪れる。その際サワタローが聞かせてくれるのは、四〇〇年以上前、朝鮮から来た陶工の娘、銀非が焼いた茶碗と、水神一族にまつわる伝承だ。本作での水神とは、河童のこと。彼らは戦乱のために故郷の天竺を離れ、唐国、高句麗を経て九州にやってきた。
一方、天下一の茶人の茶室に愛蔵されていた銀非の茶碗は、出入りする関白らの会話を聞いてある時震えだす。呼応するかのように銀非の工房の皿や器たちも震えはじめ、銀非はもうすぐ戦争が始まることを知る。それはつまり、豊臣秀吉の朝鮮出兵である。
水神たちにもその知らせは届く。争いを好まず、悪質な嘘もつかない彼らは、故郷の土地や仲間たちのために、全身全霊で戦を阻止しようと奮闘するが……。
水神たちの視点だからこそ、朝鮮出兵という史実をさまざまな角度でとらえることができる。ユーモアも交えたファンタスティックな物語だが、歴史小説としても、戦争そのものの虚しさを伝える作品となっている。
『クロワッサン』1161号より
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